福島県会津美里町にある岩代国一の宮にして陸奥国二の宮、会津総鎮守「伊佐須美神社」（いさすみじんじゃ）にふらり立ち寄りました。

伊佐須美神社は磐梯山と明神ヶ岳の間にあり、強いパワーがみなぎる神社だと云うことです。
また、四季の花で彩られ、「花のたえない伊佐須美詣」と讃えられるのだとか。

当社外苑に「あやめ苑」があり、訪れた初夏には「あやめ祭り」が盛大に開催されていました。

由緒によると、「会津」の地名は第10代崇神天皇の時に派遣された四道将軍の2人、「大毘古命」と「建沼河別命」がここで行き会ったことに由来すると云い、その時二人が国家鎮護神を祀ったのが伊佐須美神社の創祀とされるとしています。

実際には「大彦」は長野の布施で亡くなっており、当地まで及んだとは考え難いといえます。
会津の由来は大彦と沼河別の一族が北上し、当地で合流したということを暗喩していると思われます。
その子孫が根付いて当社を創建したと考えるのが自然です。

大彦には渡来系の「海家」の血も流れていましたが、彼は母方の「登美家」、つまり出雲の血を大切にし、出雲王家を崇敬していました。

大彦と息子の沼川別らは出雲に侵攻してきた九州物部族と敵対し、一時はこれを圧しますが、時運に味方されずやがて敗退し、信州から東北方面へ敗走することになります。
これを記紀はイニエ王が指示して四方に四道将軍を進軍させた話に置き換えています。

早朝の伊佐須美神社に足を運びましたが、境内の空気がとてもしっとりとしていて、気持ち良いです。

手水の水も一際冷たい。

手水舎の向かいには、今上天皇ご成婚記念の屋久杉が奉納され、

奥に「道主命」を祀る神社が鎮座していました。
道主命は、その字面から交通安全の神として祀られているようですが、万世一系の系図からは隠されている、第11代にして最後の磯城・大和王朝大王「彦道主」のことであると思われます。

神々しい神門。

神門には、祭神をかたどったと思われる像が2体

置かれていました。

さぞ社殿も立派なものだろうと期待しながら聖域に足を踏み入れると、

簡素な建物が1棟あるのみで、本殿らしきものが見当たりません。

実は当社は、2008年（平成20年）10月3日に火災で拝殿・授与所を焼失しており、続いて同年10月29日にも火災で本殿・神楽殿・神饌所などが全焼に至っています。
そのため現在は仮の社殿が建てられ、本殿・拝殿等は再建中であるとのこと。

この不自然な2度の連続火災は原因不明といいますが、放火の可能性は濃厚で、だとするなら犯人はまともな神経の持ち主ではないと言えます。
また再建中とは言いながらも、未だその気配も当地には感じられませんでした。
情勢はなかなか苦しいのかもしれません。

そのような状況にあってか、授与所では気の良さげなおばさまが、強引とはいかないまでもなかなか積極的にお守り類を勧めてきますので、気の弱い人はついつい買い求めてしまうかもしれません。
しかし社殿復興の寄付と思えば、財布の紐をゆるめても良いかという気持ちにもなります。

また当社で隠れた人気となっているのが、この丸文字の御朱印です。
最近食傷気味の御朱印ブームにあっても、この優美な墨書きは欲しくなってしまいます。
ただ丸文字の墨書きはいつでもいただけるものではなく、当文字を書ける御神職がいらっしゃる時のみの授与となるそうです。
ちなみに令和元年中は「伊佐須美神社」の文字が、陛下御即位記念として「伊佐須美大神宮」の文字になるのだと教えていただきました。

伊佐須美神社は大毘古命・建沼河別命の他に、「伊弉諾尊」（いざなぎのみこと）・「伊弉冉尊」（いざなみのみこと）を合わせた4柱の神を祀る由緒正しい神社。
当社は寛政11年に、第119代光格天皇より大神宮を名乗ることを正式に許されたと、御神職からお話いただきました。

境内の杜は神域として永く立ち入りが禁じられていたため、深い自然林が保たれています。

本殿跡地側にも「飛竜の藤」と称される、樹齢は100年以上、根回り2m以上、高さはシラカシ等に巻き付きながら35m以上にまで伸びた藤の巨木が見られます。

またこの藤のとなりには、「天海僧正」が天正6年（1571年）に母の病気平癒祈願として植えたと伝わる檜も聳えています。

神門そばには、会津五桜の1つ「薄墨桜」（うすずみざくら）が育っており、春に咲く桜は八重に一重が交わり、初めは薄墨を含んだ白色であるが、時期が進むに連れて紅色を帯びていくと、その艶やかな姿が参拝者を和ませているそうです。
社伝では、伊佐須美神が明神ヶ岳から遷座して以来の神木であると云い、毎年春の花祝祭ではこの花を入れて搗いた餅で祝宴が催されるのだそうです。

伊佐須美神社の神門は、南正面の他に西神門と東神門の二つがあります。

西門側参道には、円満福寿の神として「菊理姫」を祀る「白山神社」が鎮座しています。

その簡素な西神門の先には、先ほどの薄墨桜が立っています。

そして宮川沿いの東神門側の参道、

こちら側には、更に深い神気があふれていました。

川を渡り、

立派な手水で身を清めます。

その水を注ぐ龍も独特な形状をしています。

参道にあるのは、末社「会津大国魂神社」。

祭神は「会津大国魂の神」とありますが、この神は大毘古命・建沼河別命による会津開拓に従った八百万の神々を指すのだそうです。

伊佐須美神社の創建は、社伝によると崇神天皇10年、大毘古命と建沼河別命の親子が、新潟と福島の県境にある天津嶽（御神楽岳 1386ｍ）の頂に「伊弉諾尊」「伊弉冉尊」の二神を祀ったのが始まりだと云います。

大彦は当地に及ぶ以前に亡くなっていますので、彼の一族の子孫が天津嶽に、出雲夫婦の祖神、「クナト王」と「幸姫」の「塞の神」を祀ったのではないかと推察します。

出雲の塞の神信仰は子孫繁栄も祈願するものであったので、のちに男根に似た石なども祀るようになったと伝えられています。

東神門が見えてきました。

東神門は単なる脇門とは思えない神々しさがあります。

それもそのはず、正面参道にある楼門が平成元年に造営される際、それまで使用されていた神門が移されたものがこの東神門です。

どうりで神懸かっているはずです。

境内の南、というよりギリギリ境内に入るかどうかというあたりに、「殺生石稲荷神社」が鎮座します。

殺生石、そう九尾の狐「玉藻前」が死して尚、変化して通りがかる生き物を殺めたという石です。

南北朝時代、会津の元現寺を開いた「玄翁和尚」（げんのうおしょう）が那須野を訪ね、霊力を込めた渾身の気を一気にに殺生石へ向かって放つと、巨大な殺生石はひび割れて、その破片が各地へ飛散したと云われています。
その殺生石は破片とは言え、小さな生き物の命くらいは殺める力が今もあると云い、各地で隔離して祀られているそうです。

その一つがこれ。
雨に濡れて妖しく光っています。
側にある小さな石も殺生石の破片でしょうか、しめ縄がかけられています。

稲荷社の祭神は「宇迦魂神」。
妖狐の怨念を神狐で鎮めているのか、僕の荒ぶる胃袋も鎮めるべく、美味しい田楽を茶店でいただいて当地を後にしました。