船橋大神宮(意富比神社):八雲ニ散ル花 東ノ国篇 08

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関東の伊勢、「意富比神社」(おおひじんじゃ)を訪ねます。

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当社は千葉県船橋市の街中にある神社で、「船橋大神宮」(ふなばしだいじんぐう)とも呼び親しまれています。

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創建について、社伝では景行天皇40年、日本武尊が東征の折に当地で東国平定の成就を祈願したのに始まると伝えます。

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当時、当地では長く続く日照りと渇水に住民たちは苦しんでいました。
そこでヤマトタケルがあわせて祈雨を念じると、雨が降り出したと云います。

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もともと意富比神社では、太陽神として「意富比神」(大日神)が祀られていたと考えられています。
後にこの一帯が伊勢神宮に寄進されて御厨(夏見御厨/船橋御厨)となり、その守護として伊勢神宮の祭神である天照大神を祀る神明社が建てられました。

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やがて御厨の衰退とともに神明社も廃れ、意富比神社に合祀されました。
その後、天照皇大神に対する信仰の方が強くなり、次第に意富比神社の社名は忘れられ、もっぱら船橋神明・船橋大神宮と呼ばれるようになったということです。

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社名にもなっている「意富比」(おおひ)の由来については諸説あるのだそうです。
・大火あるいは大炊の意で食物神とする説。
・夕日を真正面に受ける高台にあることなどから夕日とみる説
・古代の有力豪族である意富氏の氏神とする説
・大日の意で、この地方の農民がもとから信仰してきたお太陽神とする説 etc.

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これらの中で僕が支持するのは三番目の説である意富氏の氏神説です。
意富氏とは多氏・太氏のこと。
そう、記紀の編纂に大きな関わりを持つ「太安万侶」(おおのやすまろ)や「藤原鎌足」を輩出した氏族です。

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多氏の祖は「神八井耳 」(かむやいみみ)。
海家(海部家)出身で大和の初代大王「天村雲」と出雲の蹈鞴五十鈴姫(たたらいすずひめ)の間に生まれた皇子であり、2代綏靖帝・沼川耳の兄弟にあたります。
その意味で、多氏は海部の血と出雲の血を持つ一族であると言えます。

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戦国時代までは、この地域で勢力のあった千葉氏系豪族・富氏が宮司をつとめており、現在でも千葉姓に改名した同族が宮司をつとめているそうです。
この富氏が東出雲王家の富家であるかと言えば、それは違うと思われます。

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関東は古くから定住している出雲族が多かったので、東出雲王家・富家の人気が高く、少しでも縁ある者は「富」を名乗りたくて仕方ありませんでした。
しかし富家は、本家以外が富を名乗ることを禁止しています。
それで関東では土地に富の名を付け、「自分は富の地の者だ」と名乗って威張っていたということです。

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「意富」も「多・太」と名乗っていたのを、無理矢理「富」の字を加えて呼ばせていたのものと思われます。
また中には本家に黙って富を名乗った者がいたそうですが、この千葉氏系富氏というのがそれに当たるのでしょう。

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もうひとつ、重要な出雲王家と海家のハイブリット一族がいます。
倭文(しず)の一族です。

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倭文一族(便宜上そう呼ばせていただきます)とは、伯耆国一ノ宮「倭文神社」(しとりじんじゃ)を中心に勢力を有していた「建葉槌命」(たけはづちのみこと)と妃の「下照姫」を祖に持つ一族です。

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建葉槌は機織の神とされ、徐福とともに支那秦国から渡った秦氏の一人。
国譲り神話で登場した天稚彦(あめのわかひこ)と同一人物とされます。
妃の下照姫は、出雲の8代目八千矛王・大国主と美女と名高い八上姫の間に生まれた娘で、木俣姫とも呼ばれて出雲から伯耆地方で広く愛されます。

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この倭文一族も東国へ移住し、茨城県の那珂地区に静神社を建立しました。
倭文は「しとり」と一般に呼びますが、「しず」とも呼びます。

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千葉から茨城にかけて勢力を有していた多氏と、茨城に移住してきた倭文一族、両者はやがて婚姻関係を繰り返し、習合して行ったものと思われます。
そして東国に、出雲的かつ秦氏的な独自の勢力圏を広げていき、やがてそこから日本を席巻する藤原一族が誕生するのです。

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さて、意富比神社本殿の左端に鎮座する「船玉神社」へやって来ました。

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社殿をよくみてみると船の形をしています。
これは地元の漁業組合の寄進により造営されたものだそうです。

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祭神はなんと、穂日家の天鳥船命(あめのとりふねのみこと)と住吉命になっていますが、本来は船魂を祀っていたといわれています。
穂日は海部の分家のようなものですが、彼らは出雲王に対して重罪を犯したので、当地に鎮座するには相応しくありません。

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ふと足元に目をやると、なんとたくさんの吸い殻が捨ててあります。
たとえ今は天鳥船が祀られていようとも、これは捨て置けません。
持ち歩いているコンビニ袋に拾い上げて、持ち帰ることにしました。

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本殿右手の境内には、和洋折衷の珍しい様式の灯明台が目につきます。
この灯明台は、明治13年(1880年)に地元の漁業関係者の方々によって建設されたもので、当時は一の鳥居付近まで海だったということです。

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この東側の境内には立派な摂社群が鎮座していますが、

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その一つに「外宮」があります。
なぜか「内宮」はなく、外宮のみ。

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祭神は豊受姫大神であり、これは豊家の関連もあるのかと期待しましたが、意富比神社本宮の船橋大明神(天照大神)に対して外宮が設けられたと考えるべきでしょう。

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また意富比神社は徳川家康をはじめとする将軍家にも深く崇敬されていました。

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毎年10月19・20日に催される例大祭は「船橋のけんか相撲」として有名ですが、これは家康公の上覧相撲に始まるとされています。

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2015年が家康公没後400年だったことから、境内の常盤神社が絢爛豪華な、立派な神社に立て替えられました。

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祭神は、日本武尊、徳川家康公、秀忠公の3柱。

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こちらには徳川三代の歯が埋蔵してあるらしいとの事で、徳川家が久能山と東照宮に加えて、船橋大神宮を大事にされていたそうです。
それは船橋の先に鷹狩りをしに行った帰りには、必ず陣を張って泊まったほど。
船橋は、幕末には官軍がその辺一体を焼き討ちにしたのですが、その時、宮司さんは家康の像だけは必死に守ったそうです。
また当社の落慶には、現徳川の当主まで来るのだとか。
何故にそんなに後世まで、徳川家は意富比神社を大事にしたのか?
それは家康の出生と当社に関連があったとしか考えられません。

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常磐神社からは意富比神社の本殿もよく見えていました。
「格別めでたき御宮」と評した8代将軍・吉宗公はまた、「伊勢や日光へ参宮できない者は船橋へ参宮すれば、伊勢・日光に参拝したのと同じ」とも述べたのだそうです。

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2件のコメント 追加

  1. 8まん より:

    意富比神社・・・懐かしいです。ここでの思い出が、奥さんを亡くした後に息子夫婦に気分転換に促され御朱印を始めた年配の方に会ったことでしょうか。不特定多数の人達が色々な御縁で結ばれる。趣深さを感じた神社です。
    ここの神社の漢字に「富」があるのも当て字であっても面白いです。

    いいね: 1人

    1. CHIRICO より:

      ご縁と言うのは本当に不思議なものですね。
      ところでご縁を感じるというのは日本人には当たり前の感覚ですが、外人さんにもあるものなのでしょうかね。
      天地万象に神が宿るという、日本人独特の感覚なのでしょうかね。

      いいね

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