女山:八雲ニ散ル花 土雲歌譚篇 22

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「南筑明覧に曰く、景行天皇の御宇、本郡東山に葛築目あり。勅命にしたがわず天皇之を征し誅に伏すと。葛築目は玖津女にてこの地の女酋ならん。女酋のこの地に都せし、一代にあらざるが如し」

- 山門郡誌(大正15年 福岡県山門郡教育会)

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福岡県みやま市にある「権現塚古墳」は土雲の田油津姫、または彼女を討った側の神功皇后軍戦死者の墓と云われています。

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経45mほどの円墳で、周溝(しゅうこう)と呼ばれる、古墳の周囲に巡らした溝も残っています。
一説に卑弥呼の墓とも呼ばれていますが、親魏和王の女王・豊玉姫の墓であるはずもなく、しかし姫巫女の墓という意味では可能性はありそうです。

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この権現塚古墳からほど近い場所に

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「老松宮」があります。

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その一角には小高く土盛りされた場所があり、そこが「蜘蛛塚」と呼ばれています。
山門郡誌にある南筑明覧は、1765年に柳河藩士戸次(べつき)求馬が書いた、柳川領内の地誌。
そこに権現塚について次のように書かれています。
「古老伝え云ふ。景行天皇の御宇、此所に葛築目と云ふ者ありて、勅命に順はず、天皇之を征したまひしが、日ならずして伏せり。その古墳なりと。
或いは云ふ。古墳は産神老松宮の社内に在り。此所は戦死の兵士を埋めし所なりと。未だ何れが是なるかを知らず」
この蜘蛛塚はまた、「女王塚」とも呼ばれていて、土雲族の姫巫女「田油津姫」(たぶらつひめ)、もしくはその前身「葛築目」(くずちめ)の墳墓であると云われています。

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この蜘蛛塚はもともとは大きな前方後円墳だったものが、大正時代に道を造る際、二分されてしまったとのこと。
地名の「大塚」からも、その様子は知れます。
古くは「山門」(やまと)と呼ばれたこの一帯が、邪馬台国九州説の候補地として挙げられるのも納得ですが、おそらく竹田に次ぐ土雲の第二勢力があったのではないかと思われます。

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当老松宮は詳細知れませんが、一般に菅原道真を祀っていることが多く、土師氏との関連が示唆されます。
同じく道真を祀る天満宮が、その多くが元は手間天神と呼ばれ、事代主を祀っていたことからも、当地が出雲信仰を持つ一族がいたことを物語ります。
そして前方後円墳に異敵・土雲の女王が埋葬されていると伝えられている事実は、それは討った側にさえ畏怖を覚えさせたほどの人物であったことが窺い知れるのです。

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この蜘蛛塚から顔を見上げれば、そこに見えるのは「女山」(ぞやま)、神奈備です。

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女山を神奈備とするのは、その山腹に「女山神籠石」(ぞやまこうごいし)が造られているからに他なりません。

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神籠石とは石垣で区画した列石遺跡の総称で、一般には『日本書紀』や『続日本紀』に記載がなく遺構でのみ存在が確認される山城を指すとされます。

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元々は高良大社の参道脇にある「馬蹄石」など、神の依り代となる岩石のことを指す名称でしたが、近くにある列石と混同して学会に報告されたため、列石遺構の方にこの名が付けられた経緯があります。

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神籠石の性格について霊域説と城郭説との論争が対立していましたが、昭和38年(1963年)の佐賀県武雄市おつぼ山神籠石の発掘調査で、列石の背後にある版築によって築かれた土塁と、列石の前面に3m間隔で並ぶ堀立柱の痕跡が発見され、現在では山城であることが確定的となりました。

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各地に点在する神籠石には、「最初期形成時代以降にかなりの手が入っていると思われるもの」「生活域、食料生産域と隔絶し、水の確保が難しく、籠城には向かず、祭祀遺跡との位置関係が特殊であるもの」「稲作農耕地域の小丘陵に設置されているもの」など様々な差異があるものの、基本的には幾つかの谷を取り込み、山腹を取り囲むように並べられています。
また谷には数段の石積みを有する城門や水門が設けている場合がほとんどです。

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僕は神籠石は、神域・祭祀域を区別するための結界であるとする、霊域説を主張します。
それは列石遺構の内部に、顕著な建物遺構が見られないこともありますが、実際に幾つかの神籠石を訪ねてみて、それが城としての防御力に弱いように感じたからです。

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神籠石と似たもので、白村江の戦い以降に急速に築城された山城群があります。
しかしこれと神籠石は明らかに違います。

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ほとんどが一段、せいぜい二段にしか積まれない石に、たとえ土を盛ろうとも、どれほどの防御力があるでしょうか。

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そしてさらには、北部九州の神籠石は、なぜか土雲族の拠点と一致するのです。
つまり神籠石は山城の石壁よりも時代が古く、土雲族の神域を区別するために置かれたものと考えます。

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昭和56年(1981年)の第4次調査によると、女山の神籠石が造られた時期は7世紀後半頃と推定されたそうです。
しかしそれは天智2年(663年)の白村江の戦いの後に築城された山城のひとつであるという説に基づけられて設定されたのではないでしょうか。
女山中腹では2~3世紀のものの銅矛2本が出土しており、それはもっと古い時代に、ここが聖域として存在し、神に捧げられた証拠となると考えられます。

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女山の列石内には六世紀後半に築造されたという2基の古墳もあります。

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1号墳は石室上面が失われており、ストーンヘッジさながらの風貌となっています。

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直径約14mの円墳で横穴式の石室です。

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西北西方向に開口しており、その先は平野部に向いており、里を先祖が見守る形となっています。

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1号墳のすぐそばにある2号墳も同じ造りになっており、墳丘の規格化がなされていたことが窺えます。

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女山の麓に降りてくると、3つの水門を見ることができます。

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水門は産女谷・源吾谷・長谷・粥餅谷(横尾寺谷)の4ヶ所で認められていますが、源吾谷水門は土取工事に伴い現在は崩壊しています。

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この産女谷水門も一度、土取工事で崩壊しており、現在のものは積み替えられたものになります。

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女山を祭祀したのは、田油津姫とも、葛築目とも云われています。

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田油津姫は兄の夏羽がいた香春山地区出身でした。
なぜ彼女が、遠く離れた山門の姫巫女となっていたのか。

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それは葛築目が物部との抗争で敗れ、殺されたからでした。
それは景行帝の話として伝えられています。

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しかし当地を山門と呼ばせるほど、葛築目も相当な力量を持った姫巫女であったと思われます。
当地を治める戸畔として、彼女ほど才あるものが山門にはいなかったのでしょう。
そこで神夏磯媛(かむなつそひめ)の血を引く田油津姫に声がかかったのではないでしょうか。

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それにしてもこの水路だけはがっちりと石が組まれています。ここだけを見れば確かに防御のための列石であると考えることもできますが、それであればそのほかの場所で一段しか組まれなかった列石が、砦の役目のために組まれたとはますます思えません。
未だ原型を留めるほどの水門が意味するものは何なのか、それが単なる山の水抜きのためだけではなかったと思うのでした。

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