千光寺から階段をぽつぽつと降りてくると、天寧寺の三重塔が見えてきます。
この景観は尾道のイメージとしてよく使用される構図です。
この天寧寺から艮神社の東側にかけて続く細い路地は「猫の細道」と呼ばれ、地域猫とアーティストの遭遇スポットとなっています。
石畳の坂と階段、細道の織りなすノスタルジックな小さな街は林芙美子や志賀直哉といった文芸家に愛され、小津安二郎監督や大林宣彦監督を魅了しました。
四季折々美しい尾道ですが、僕はなぜか夏ばかり訪れています。
夏の尾道は初恋に似ています。
長い階段を降りていると下から登ってくる日傘をさした美しい女性と目が合い、すれ違いざまのふわりと漂う残り香に、瀬戸内レモンのような甘酸っぱさを感じました。
千光寺山ロープウェイ山麓駅に戻ってくると、その横に鎮座する「艮神社」(うしとらじんじゃ)を参拝しました。
当社は806年に建立されたとされ、旧尾道市内で最古の神社となります。
境内にはクスノキの大木が4株あり、入口に鎮座するクスノキが最大で幹が3つに分かれています。
まさにサイノカミのクス。
手前には塞神社が鎮座しており、古代出雲ファンには垂涎のシチュエーションとなっています、ムフフ。
壁際に小さな社があり、
正面に立派な社。
誰が祀られているんですかねぇ、クナト王ですかねぇ。
手水は亀。
祭神は当然出雲系だろうとおもえば、「伊邪那岐神」「天照大御神」「素戔男命」「吉備津彦命」とビミョ~。
艮神社は千光寺の磐座群の遥拝所的な場所だと思うのですが、そうであれば、本来の祭神は出雲系か豊系ではなかろうかと思うのです。
境内社には金山彦神社もあります。鉄も採れたのでしょうね。
艮神社は「時をかける少女」「ふたり」「かみちゅ」などのロケ地やモデルとなっています。
艮神社からしばらく歩き、「御袖天満宮」(みそでてんまんぐう)を目指します。
長い階段の先に鳥居が見えてきました。
それにしても暑っつ。
御袖天満宮では延喜元年(901年)、菅原道真が藤原時平の讒言によって大宰府へ左遷される途上、尾道に上陸した時に土地の人々から麦飯と醴酒を馳走されたので、これに感謝して自らの着物の片袖を破り自身の姿を描いて与えたと伝えられています。
その袖を「御袖の御影」と称して祀る祠を建立したのが創祀で、「御袖」を祀る事から「御袖天満宮」と称されたと云います。
境内に至るまでの長い石段は、約5mの一枚石55段が使われています。
この尾道石工の見事な職人技に感嘆の意を感じていただければ、長い階段を登る苦しみを和らげる一端となることでしょう。
石段の最後の1段だけは、わざと石を継いであります。
古人には、完璧なものはよくない、災いを招く、魔が差すという考えがあり、あえて完璧にせず隙を作ったのです。
そしてこの階段こそ、1982年(昭和57年)に公開された大林宣彦監督の日本映画『転校生』で、主人公の斉藤一夫と斉藤一美が転げ落ちた階段でした。
『転校生』は、山中恒の児童文学『おれがあいつであいつがおれで』の最初の映画化作品で、尾道を舞台に身体が入れ替わってしまった男女の中学生を描いた青春映画。
主演は尾美としのりと小林聡美。
制作には数々の困難があり、一時期はクランクアップが危ぶまれるところまで追い込まれました。
まず一美役の小林聡美は裸にならなくてはいけない場面が計4回あり、今にも泣き出しそうであったそうです。
また一夫役の尾美としのりも、内股で歩かされたり、ビューラーでまつ毛をカールされたり、恥ずかしくて仕方なく、試写会に学校の友人が来てるのを見てトイレに隠れたほどだといいます。
出資面でも「男と女の身体が入れ替わる」という内容が「破廉恥。わが社の社風に合わない」と、サンリオがスポンサーをの降りるなど、制作費の調達は極めて困難を呈していました。
苦難の末出来上がった映画は、日本テレビの「金曜ロードショー」でも全国放送され、以後高視聴率を記録します。
その後、大林が尾道を舞台に撮影した『時をかける少女』(1983年)、『さびしんぼう』(1985年)と組み合わせて「尾道三部作」と呼ばれるようになりましたが、大林は「もし『転校生』が生まれてなかったら、あとの尾道映画が続かなかったかもしれない」と述べています。
また、尾道三部作に関する記念碑や案内の看板は尾道にほとんど見当たりません。大林監督は、「記念碑は映画を観てくれた人の、心の思いとして残ればよい。その人が思い出の地を訪ねた時、何時か観たスクリーンの中と同じ風景がそこに守られていれば、それで充分。記念碑など、その思い出の風景を壊すだけだし、次の他の人の映画撮影の邪魔にもなる。記念碑は、万人の古里を私物化するだけだ。ぼくはそれを千光寺山の花崗岩の”傷”から学んだのだ」と言葉にしたそうです。
今は女らしさ、男らしさなんてことを言い出せば、すぐに声の大きな人たちが騒ぎ立てますが、男は男らしく、女は女らしくという風潮であったからこそ、このような傑作の映画が生まれたのだろうと思われます。
声の大きな人たちが政治も動かしかねない今後の世において、映画も文芸も、実につまらないものしか生まれない世界になっていくのかもしれません。
汗をたっぷりかいて、小腹も空いたので「尾道ラーメン」を久々に食することにしました。
入った店では、気さくなおばちゃんが調理してくれました。
尾道ラーメンは鶏ガラスープに平子いわしを使ったあっさりスープで、大きめの豚の背脂が浮かんでいるのが特徴です。
おばちゃんに追加注文した餃子は、アッツアツの鉄鍋で出てきました。
ちょっと焦げていますが、カリカリで美味しい。
おばちゃんめっちゃ旨かったよ、と暖簾を潜って店を後にしたのでした。
天満宮の御朱印何パターンもあるんですね。
映画「転校生」がこんなに根付いているとは。
当時ロケ地めぐりをしたときは何もなくてそこが良かったのですけれど。
尾道ラーメン、ご存じかと思いますが大野城市にお店が有りますね。
前を通るたびにどんなラーメンだろうと思っていましたが、美味しそうです。
そういえば、市の歴史講座を聴きに行ったとき、落下傘降下のようにポツンとそこだけ文化が伝わる例として「要するに萬○ラーメンですよ!」と講師がおっしゃると、皆さんがなるほど~と納得されてたのを思い出しました。
大野城市民に愛されてる尾道ラーメン。今度行ってみようかな。
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大野城の尾道ラーメンはずいぶん昔に行きました。
ずっと営業されているので、根強いファンがいらっしゃるのでしょうね。味はあっさりめの醤油風中華そばです。博多ラーメンとは対極にあるようなラーメンです。
そこだけ文化、脊振トンネルを抜けた先のさざんか千坊館で本格的な瓦そばを食べたので、店の奥様に山口の方ですか?と尋ねたら、違いますよと返ってきたので違うんか〜い!って心の中で突っ込んだのを思い出しました😄
記念碑や案内板を建てるのを大林監督は嫌ったようで、久しぶりに尾道を歩きましたが、映画を案内するようなものはほとんど皆無でした。あったのはこの御朱印くらいのものですよ。
こんどは新幹線で行って朝から晩まで猫道をぶらぶらしたいと思いました。
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>>夏の尾道は初恋に似ています。
→すごい想像力ですねw
>>古人には、完璧なものはよくない、災いを招く、魔が差すという考えがあり、あえて完璧にせず隙を作ったのです。
→確かに、完璧だと思い過信して油断したり、おごりに繋がったり、、、少し隙があるくらいの方が慎重でいられるのかもしれませんね。。。考えさせられます。
大林監督の尾道シリーズにこんなエピソードがあったとは。。。
ラーメンも餃子も美味しそう♪
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僕は想像力の怪物です😄
高知よりは寄りやすいのではないでしょうか、ぜひ尾道に足をお運びください♪
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