
兄から借りた神宝の釣り針を失くした「山幸彦」は綿津見神の計らいで、無事釣り針を見つけ出し、陸へもどります。
綿津見神は兄の「海幸彦」は3年のうちに貧しくなり、憎んで山幸彦を攻めてくるだろうから、その時はこれを使いなさいと二つの宝珠を山幸彦に授けました。
山幸彦は海幸彦へ釣り針を返すのですが、その時、釣り針に呪いをかけます。
『この釣り針はつまらない針、うまくいかない針、貧乏の針、おろかな針』と。
海幸彦はそれと知らず、早速釣りを始めますが、以前のようにうまく釣ることができず、しかもやることなすこと全てうまくいかなくなりました。
これは弟のせいにちがいない、そう思った海幸彦は山幸彦を攻めようとしました。

綿津見の神が山幸彦に授けた二つの珠、「塩満珠」(しおみつたま)「塩乾珠」(しおふるたま)を御神宝にした神社が西都市にあります。
「鹿野田神社」(かのだじんじゃ)です。

しっとりとした森に包まれた神社がありました。

住居一体型の拝殿に見えます。

真っ黒の狛犬にどきりとしました。

二つの宝珠を祀っているにしては、なんとも侘びて質素です。

境内に「塩の井」があります。
宝珠のご利益で、こんな山の中でなぜか、塩分を含んだ霊水が湧いています。

青島にある「玉の井」と対を為すかのようです。

一口いただきましたが、確かに、薄めた海水のような味でした。


弟の所業に恨み攻めた海幸彦でしたが、山幸彦は「塩満珠」を使い、海を満ちさせ兄を溺れさせます。
海幸彦が救いを求めると今度は「塩乾珠」で海を干かせ、助けてあげました。
こうして海幸彦はこらしめられ、山幸彦に従うよう頭を下げたのでした。
理・不・尽!

日南市北郷町の「潮嶽神社」(うしおだけじんじゃ)は、唯一と言っていい「海幸彦」を祀った神社です。

山幸彦が塩満珠で海を満たした時、海幸彦が「磐船」(いわふね)という頑丈な船に乗り、たどり着いたのがこの地であるといいます。

海幸彦はここに宮を築き、この地をしっかりと治めたといいます。

そして海幸彦は「隼人族」の祖となったそうです。

日本昔ばなしでは、いつも兄が悪者にされます。
僕は幼い時から、それを理不尽に、そして悲しく思っていました。

ただこの海幸彦・山幸彦の物語は、もっと奥深いものが隠されているように思います。
出雲から逃げてきたイザナギは海の神を次々生み出し、その子孫が山の神の娘と結婚して海幸彦・山幸彦を産みます。
そして山幸彦はイザナギが生み出した龍宮の姫、豊玉姫と結ばれ、海幸彦は南下し隼人族へと成っていきます。
これは日向倭国が、渡来系出雲族の派生民族が大山祇族と安曇族の複雑な婚姻によって成立していったことを表しているように思われました。

ともあれ、海幸彦の社は古びてはいたものの、清潔に保たれていたのが、ちょっと嬉しかったです。
