旧佐世保無線電信所(針尾送信所)

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佐世保から西海方面へ車を走らせていると、思わず NI☆DO☆MI してしまう怪しげな3本の塔があります。

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シュールレアリズムの悪夢のような、のどかな風景にさも当たり前のように建つ明らかにパースのおかしい異物。

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魔女の塔か、はたまた魔王を召喚するためのシステムか。

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いえ、これは「針尾送信所」(はりおそうしんじょ)の電波塔である。

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針尾送信所は大正時代から存在する自立式電波塔で、古さ日本一、第二次世界大戦以前から建つ現存する塔の高さ日本一の国の重要文化財として、「旧佐世保無線電信所(針尾送信所)施設」の名称で指定されています。

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この電波塔は遠くから眺めるだけでなく、近付いて見ることも可能です。

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3本の電波塔はそれぞれ、高さ136m、基部の直径約12m、外壁の厚さ76cm。

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長崎県で最も高い建造物であり、1954年に名古屋テレビ塔が完成するまでは日本一の高さを誇りました。

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まさしく魔女の針のように細長く天を突き刺す電波塔。

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Googleマップで確認すると、3本の塔の配置は約300m間隔の正三角形となっています。
これは本当に魔王を召喚する魔法陣ではないのか!?

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恐る恐る塔の真下へ向かいます。

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ぽっかりと開く異界の門。

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中に入るとなにやら大きな機械が鎮座しています。

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資材運搬用の巻上げ機だそうですが、いったいこれで何を、何人を吊し上げたのか。。
甲高い笑い声と共にハンドルをギコギコ回す魔女の姿が思い浮かびます。
そして上を見上げると、

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・・・なにこれ~~~っ!

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これあれやん、スターなウォーズで黒い人が「わしがお前の父ぢゃ」とか言ってたやつやん。

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天国まで続くはしごには「あぶない!」の文字が掲げてありましたが、誰も登らんでしょこんなん。
と思っていたら、終戦後は近隣の子どもたちの遊び場として男の子も女の子も関係なく登っていたという話です。

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今は頂部の航空灯点検のため、整備業者が3カ月に1度登っているそうですが、登るのに30分ほどかかるそうです。

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外から頂部を眺めてみます。

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壁面を見ると、板をくっつけたような跡が。
今のような重機もない時代、幅14cm長さ136cmの枠板をぐるりと取り付け、そこにコンクリートを流し込んでいったのでした。

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それを徐々に枚数を減らしながら繰り返すこと100回、そうすれば高さ136mの塔の完成です。

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そのような気の遠くなる作業を3塔ほぼ同時に行い、1918年(大正7年)11月に着工、4年後の1922年(大正11年)に完成しました。
総工費は当時で155万円。
日露戦争を契機に無線通信の重要性を認識した日本海軍が、当時の最新技術を駆使して建設した長波送信施設だったのです。
マオウノショウカンシステムヂャナカッタネ。。

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さて、日本海軍佐世保鎮守府隷下の無線送信所として建設された針尾送信所でしたが、終戦後は米軍管理地となり、 昭和23年(1948年)から佐世保海上保安部の所管として海上自衛隊と共同で使用しているそうです。
ただし巨大な電波塔は、平成9年(1997年)に後継の無線施設が完成したことにより役割を終えています。
その3塔の中心地に足を向けると、

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ナンジャコリャ~ヤッパリマオウショウカンシトッタンヂャナインカーイッ!

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これは「無線電信所電信室」です。
3本の電波塔は単体では機能せず、それぞれの塔の頂上部分を空中線で結び、それをこの中央の電信室に引き込んで長波電波を電信する1つの巨大な送信施設になるのだそうです、すげえ。

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長波(30~300Khz)と呼ばれる低い周波数帯域の電波は、地球大気圏にある電離層の反射を利用するもので、極端に言えば地球の真裏にまで情報の伝達ができるとのこと。
実際にはここから、中国大陸や東京・広島方面、台湾や沖縄などの南太平洋へと情報が電信されたそうです。

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一説には太平洋戦争開戦を告げる「ニイタカヤマノボレ1208」の発信塔であるともいわれていますが、この暗号を真珠湾攻撃部隊に向けて送信したのは千葉県船橋市の船橋送信所と愛知県碧海郡依佐美村の依佐美送信所であり、針尾送信所は瀬戸内海に停泊中の連合艦隊旗艦「長門」が打電し、広島県の呉通信隊が送信したものを受信し、中国大陸や南太平洋の部隊に再発信したものであろうとされています。

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針尾送信所は建設からおよそ100年が経過します。
136mのコンクリート塔は、老朽化の危険性から撤去の話もありました。

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しかし専門家が強度調査してみると現在の耐震基準をクリアしており、後100年は大丈夫だという結果を得られたのだそうです。

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確かに間近でみても、鉄筋コンクリートの外壁には亀裂や剥離など、大きな痛みは見受けられませんでした。

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阿蘇の火口から生まれ、西海橋を崩壊させたあの古代翼竜の大怪獣ラドン、

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その衝撃波にも、この巨大電信塔は耐え切ったのです。

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戦争遺構の一つではありますが、ろくな機械もない大正時代において、日本人の類い稀なる正確さと情熱の結晶がこうして今も姿を保っていることに、素直に驚嘆の意を隠せないのでした。

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7件のコメント 追加

  1. 御高配賜り、恐悦至極に存じます。過去の記事も宝の山ですね。素晴らしいアンテナと行動力に感服致します。

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  2. 千葉から近い船橋送信所に行ったことがあります。地上からの景色は都市周辺の団地の趣きにすぎません。
    ただそこをグーグルマップで俯瞰すると、ほぼ真円を地図上に認めます。
    古代の儀式が行われたかのような、ナスカの地上絵のような。。。ではありません。
    中心の立派な建物はロックされていて、入ることはできませんでした。
    針尾のことをその時に調べ興味を持っていました。詳説ありがとうございます。
    こどもが登って遊んでいたところで笑ってしまいました。
    興味の対象が似ていて、いつも面白く読ませてもらっています。

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    1. CHIRICO より:

      グーグルマップで船橋送信所を見てみましたが、本当に丸い円が見えますね。
      よっちゃんさん好きだろうなと思って特集組んでみました(笑)
      まだまだ続きますよ!

      いいね: 1人

  3. Rumikoの日記 より:

    とても素晴らしい視点だと思います。
    素敵な写真。
    一緒に旅をしている気分です。💞

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    1. CHIRICO より:

      ありがとうございます!

      いいね: 1人

  4. dalichoko より:

    アートですね。
    Tarkovskiiの映画に出てきそうな風景です。
    瀬戸内海の島にも同じような風景がありましたが、スケールが違います。
    圧倒的です!(=^・^=)

    いいね: 1人

    1. CHIRICO より:

      面白いですよね、大正時代にこんなもん作っちゃうんですから。
      生で見たらもっと驚きますよ!

      いいね

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