
青森の世界遺産「白神山地」(しらかみさんち)。
そこは青森県の南西部から秋田県北西部にかけて広がっている標高1,000m級の山岳地帯です。
白神山地は、屋久島と並んで1993年(平成5)に日本で初めてのユネスコ世界遺産(自然遺産)に登録されました。
白神山地で象徴的なものが「ブナの原生林」です。
人の手がほぼ加わっていない自然の原生林は、屋久島と同じく、生命力にあふれた世界です。
白神山地を本格的に味わうには、それ相応の登山の覚悟が必要ですが、手軽にそのエッセンスを堪能できる場所もあります。
その一つが「十二湖」(じゅうにこ)です。

十二湖とは、青森県西津軽郡深浦町にある複数の湖沼の総称で、白神山地の一角、津軽国定公園内にあります。
十二湖と名が付けられていますが、その湖の数は実に33ほどあるそうです。
全てを回るとすると、それこそ半日以上は要するのですが、更にサクッと十二湖のエッセンスを堪能できるコースがありました。

十二湖エリアの最奧近くにある森の物産館「キョロロ」から、もっとも代表的な「青池」へと巡るトレッキングコースがそれです。
駐車場もあり、勾配もゆるやかで最短1時間ほどで巡る事ができます。
拍子抜けするほど簡単なコースですが、その中身はかなり濃厚でした。

「キョロロ」からトレッキングコースに入るとすぐに「鶏頭場の池」へと出ます。

そこからすでにブナの木がそびえ立ち、ここが深い山の中であることを感じさせてくれます。

鶏頭場の池もしっとりとして、美しい湖(池)です。

十二湖という名前は、広大なブナの森に点在する33の湖沼が、「大崩」という山から見るとその数が12に見えるということから付けられたと云われています。

この時僕は、傘も持たずに森に入り、急に大粒の雨が降り出しましたが、
豊かなブナの森が、雨から僕を守ってくれました。

十二湖は、1704年の能代地震による「崩山」(くずれやま)の崩壊で塞き止められた川から形成されたみたいです。
そこにブナの木が密集し、その高い自然の浄化能力により水質の良い水が各所で湧き出しています。
それを代表する湖沼がこの後すぐに姿を現しました。

「青池」です。

北海道美瑛の「青い池」や摩周湖の「神の子池」とはまた違った、神秘的なブルーです。

その青さは「青いインクを流したようだ」とよく表現されますが、その原因はまだ解明されていないとのことです。

早朝に訪れたので、この世界にただ一人、僕だけがいました。

鳥のさえずるBGMだけが辺りに響きます。

倒木の姿がうっすら浮かび、散った葉が金箔を散らしたようで、まるで絵画のような風景です。

この青色は、光の加減で微妙に色を変え、いつまで眺めていても飽きることはありません。

時間の許す限り、ここに佇んでいたいと思いました。

名残惜しみながらも足を進めると、「ブナ自然林」のコースに入ります。

ブナの木はとてもしなやかで、女性的な雰囲気がします。

これらの木に囲まれているだけで、心が優しく落ち着いていきます。

ブナの木は人の生活に利用しにくかったため、この森に人の手があまり入らなかったということです。

人は本当に身勝手ですが、この森がこうして残っていれくれたことがとても嬉しい。

また池が見えてきました。

青池に勝るとも劣らない美しさと透明度を誇る「沸壷の池」(わきつぼのいけ)です。

青池と水源は同じと思われますが、こちらはより自然な澄んだ色をしています。

森に囲まれた澄んだ水色は、とてもロマンティックです。

この水は、実は飲み水にもなるほど清らかです。

再び森の中を歩いていくと「落口の池」に出ます。

その向かいに「十二湖庵」という休憩所がありますが、

そこでは先ほどの「沸壺の池」から流れてきた水を使って、お茶を点てていただけます。

この水、一口含んでみましたが、まろやかで優しい味でした。

ブナの浄化力は、まさに神秘のごとくです。

この後は「キョロロ」へと戻り行きますが、ここは慌てず、
白神の命あふれるお茶で、身も心も満たしていきましょう。
お茶は無料ですが、ぜひ心付けは残していきたいものです。
