
第2の軍艦島「池島」。
訪れた者を虜にする、この小さな島の1番の魅力は「炭鉱住宅跡」でしょう。
そこには人の文明がいとも簡単に自然に呑み込まれる、現在進行形の姿を見ることができるのです。

この炭鉱住宅群は、池島の高台にあります。

さて、再び池島事務所・郵便局前からスタートです。
例の新店街通りの向かいには、

いきなりドーンと、鉱員たちが暮らしたマンション群が並び建っています。

その迫力、凄まじき。

まるでジャングルの中の古代遺跡を見ているようです。

あまりに不自然な存在感。

住宅の間にある小道を歩いていると、人類が滅亡した世界に生き残ってしまったかのような倒錯を覚えます。

昭和45年(1970年)の最盛期には、池島の人口は7700人を記録しています。

平成13年(2001年)に池島炭鉱は閉山、その時の人口は2700人だったそうです。

以降、仕事を失った人たちの緩やかな転出が続き、現在の島民は140人ほどになっているといいます。
池島には300匹の猫が居るといいますから、島の支配者はすでに人から猫に変わってしまったのかもしれません。

しかし人が住まなくなった建物というのは、20年ほどでこんなにも荒むものか。

車ごと呑み込むもの、

鮮やかな芸術であるかのように絡むもの、

まるで新手のデザイナーズマンションさながらに、個性的な棟が立ち並ぶのでした。



住宅群の中を西に向けて歩いていきます。

そのいたるところに張り巡らされるパイプのようなもの。

これは港の近くにあった火力発電所の蒸気(熱)や真水を、施設や各家庭へ供給するためのものでした。

この管のおかげで、住人はとてもエコで豊かな暮らしを送ることができたのだそうです。

小中学校が見えてきました。

と、なんじゃ?猫がめちゃ並んで寝転がっています。

向かいには「長崎市設池島総合食料品小売センター」の建物が。

そこに今尚営業を続けておられるのは、池島で唯一の食堂「かあちゃんの店」です。

朝8時~夜6時までしっかり営業されている「かあちゃんの店」は、地元民にも観光客にもとても愛されています。

僕はおすすめメニューのひとつ「ちゃんぽん」を注文しましたが、失礼ながらとてもしっかりとした、ちゃんとしたちゃんぽんでした。
普通に旨いです。
池島に来たなら、ぜひ「かあちゃんの店」でランチすることをお勧めします。
気さくな「かあちゃん」が、池島の見所や歴史など、教えてくれるかもしれません。



「8階建てにはもう行ったね」
かあちゃんにそう勧められて、店から西向きに足を伸ばします。

そこには他とは明らかにデザインが違う、ハイソなマンションが建っていました。

異様な威圧感を持って立ちはだかる「8階建て旧炭鉱住宅」。

まるでゴッサムシティ。
バットマンが屋上から罪人を睨みつけていてもおかしくないシチュエーションです。

出来たての頃は先鋭的で、高級感に満ちていたのでしょう。

当時の炭鉱マンは、一般のサラリーマンの倍の給料を得ていたとも言われていますので、このような立派なマンションにも住めたのです。

ただこの8階建て、実はエレベーターがありません。
8階の人、大変やん!

いえご安心ください。
先の緩やかな坂を登ると、

5階に直接つながる橋が設けられているのです。
なんということでしょう、8階であったはずのフロアが4階建てに早変わりっ!

そしてさらに、隣の棟へは屋上から渡ることもできます。
いやいや、
いやいや、
いやいやいやいや、まずいでしょ、これは。

昭和45年頃の池島は人口がピークを迎え、不足する住居を補うためにこのような珍妙な高層マンションが誕生したのだそうです。
ともかくも景気が良すぎると、時としておかしなものを造り上げてしまうものです、人間は。

8階建ての周りにも、凡用量産型団地の軍団が立ちはだかっています。

あるものは颯爽と立ち、

あるものは色づき、

花に埋もれ、

樹木に貫かれ、

そうして終焉の日を待っているのです。



元の炭鉱住宅群の中に戻ってきました。

錚々たる建物に目を奪われがちですが、

玄関や細かな部分もよく見ると面白いです。

ロマンティックでノスタルジック。

どこを撮っても絵になります。

錆びたブランコも見つけました。

孤独の中で世界の終焉に浸っていると、

唐突にワゴン車がやってきました。

するとおじさん、日用品を売り始めます。

ぽつりぽつりと、それを買い求める人が出てきました。
ええ~っ!

人、住んどるんかいっ!
僕が廃墟だとばかり思い込んでいた団地群は、まだ人が住んでいる棟もあったのです。

ただしそれは、一棟に一世帯程度の少人数のようです。

この炭鉱住宅群の中には、今も営業を続ける銭湯もありました。

つまりこの廃墟の島は、まだ微かに生きているのです。
廃墟だなんて言うのは失礼なのかもしれません。

でもやっぱり、ほぼ廃墟。

人の営みはあるものの、穏やかに廃墟化していく途上の稀有な島、それがこの池島なのです。



池島小中学校の裏手、北のはずれに「池島神社」があります。

鳥居の扁額には「白坐比咩神社」とありますが、「白山比咩神社」のことでしょうか。

拝殿には池島神社と掲げられていました。

祀られているのは「菊理比咩」ではなく「伊邪那美命」と「大山祇命」。

一応、二礼二拍手一礼しますが、目的はここではありません。

神社の横には、ロープが張られた急斜面の道があります。

そこをせっせと登ると謎の御神体が出現!

それさえも華麗にスルーした先に

絶景。

なんと碧い海でしょう。

ここは「四方岳」、標高114mの池島イチの絶景スポットなのです。

かあちゃんの店や炭鉱住宅群、

それに8階建の数々が、まるでミニチュアのように見渡せます。

第2立抗を8階建越しに見ることができるのもレアな光景です。
コミュニティバスも写ってますね。

このどこか懐かしい小島の景色を、心のポケットにしまって僕は池島を後にしました。
またきっと、すぐに逢いたくなるね。
