香川県高松市一宮町にある「田村神社」（たむらじんじゃ）は、讃岐国一宮だというので、ぶらりと訪ねてみました。

田村神社の参道は長いです。
たぶんここが入口だと思います。

どこまでも続くよー。車停め放題よー。

まあ、多くの人はこの辺りから参道に入るのでしょう。

立派な社殿が見えてきました。
田村神社は、別称として「田村大社」「田村大明神」「一宮神社」「一宮大明神」「定水大明神」（さだみずだいみょうじん）などと呼ばれています。

田村大神については、「猿田彦大神」や「五十狭芹彦命」を指すとされ、近世には神櫛別命・宇治比売命・田村比売命・田村命など様々で一定していません。
五十狭芹彦（いさせりひこ）は『日本書紀』で、吉備津彦の本名だと記されています。
神櫛別（かみくしわけ）は景行帝の皇子、宇治比売は伊勢の国津御祖神社によると大年神の娘とされます。

また、社殿が作られる前は、「定水井」（さだみずのい）という井戸にいかだを浮かべて、その上に神を祀っていたことから、元々は当地の水神（龍神）が祭神であるとも云われています。
この「定水井」は今も奥殿の下にあるそうです。

ともあれ、現在の祭神は、
「倭迹迹日百襲姫命 」（やまとととひももそひめのみこと）
「五十狭芹彦命」（吉備津彦命）
「猿田彦大神」
「天隠山命」（あめのかぐやまのみこと／高倉下命）
「天五田根命」（あめのいたねのみこと／天村雲命）
の5柱を総称して田村大神と称しています。

いろいろとごちゃ混ぜになっており、これは正しい歴史を探る上で、混乱を生じかねません。
なお「田村」の社名は鎮座地名によるもので、他の田村神社のような坂上田村麻呂との関係はないとのことです。

田村神社には、とにかく立派な社殿がいくつも建っていて驚きます。
こちらは「宇都伎社」（うつきしゃ）で、大地主神、倉稲魂神を祀ります。

素婆倶羅社（そばくらしゃ）は医薬の神として少名毘古那神を、他、大年神、塞神、大水大神、菅原神を祀ります。

田村神社は一ノ宮であるが故に、周辺のさまざまな神社を取り込んで、デパート状態になっているのでしょう。
しかも記紀に準じて名称も曖昧なままです。
倭迹迹日百襲姫は、大和姫＋登美家＋モモソ姫を合わせた、間違った名称です。

少名毘古那も、本来は古代出雲王国の副王の役職名「少名彦」（スクナヒコ）のことであり、最後の「那」は余計なものです。

それでも、境内にはサイノカミの痕跡がちらほら見かけられ、出雲の関連を感じることができます。

道真公も、出雲ゆかりの人。

境内の裏手へ回ろうとすると、稲荷社というわけでもないのに、赤い鳥居が立ち並び、

さぬき獅子や

八咫烏さんがいらっしゃいました。

つくづく謎深い神社ですが、やはり田村神社の本質は、水神であろうと思われます。

香川県は雨が少なく、降ったとしてもすぐ海に流れ込む地形のため、昔から水不足に悩まされてきたといいます。

そのような中で、地下水が豊富だった当地は稲作の中心地となり、いつしか井戸は神聖視されるようになったのでしょう。

やがてその井戸には、龍神が棲んでいるという伝説が生まれることになります。

田村神社の神体である井戸の淵を見た者は、中から龍に睨まれ、その日の晩に亡くなったとか、大工が工事中に誤って淵の中にノミを落としたところ、やはり後日亡くなったなどと、龍穴にによくある話も伝わっています。

田村神社の春と秋に行われる特殊神事「御蚊帳神事」（おかちょうしんじ）は、奥殿の下にある井戸に蚊帳を下げ、深淵の姫神に籠もってもらうという神事なのだそうです。
5月8日に春季例大祭とともに御蚊帳垂神事 （おかちょうたれのしんじ）で蚊帳が下ろされ、10月8日に秋季例大祭ともに御蚊帳徹神事 （おかちょうあげのしんじ）で蚊帳が上げられます。
これは龍神は姫神であると言っているわけで、母系社会で春秋の祭りを行っていた、古代出雲族の名残を伝えるものかもしれません。