幣之池神社:常世ニ降ル花 抓津夏月篇 05

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「春されば まづさきくさの 幸(さ)くあれば 後にも逢はむ な恋ひそ吾妹(わぎも)」
〔春になれば、まず先に咲く三枝(さきくさ)のように、つつがなくあればまた逢えることでしょう。だから恋しがらないでおくれ、私の愛しい人よ〕

- 柿本人麻呂『万葉集』1895

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島根県隠岐郡隠岐の島町都万の山中に「幣之池」(しでのいけ)と呼ばれる聖地があります。

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うっかり通り過ぎてしまうような、そんな場所。

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鳥居の先は森の小道が続いています。
満開のミツマタの花が、出迎えてくれました。

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ミツマタは、3月から4月ごろにかけて、三つ叉に分かれた枝の先に、可憐な黄色い花を咲かせます。
その樹皮は、和紙の原料として用いられてきました。

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『万葉集』にも度々登場し、歌人に愛された花ですが、古代には「サキクサの」という言葉が「三つ」という言端(ことば)に係る枕詞とされており、枝が三つに分かれるミツマタは昔は「サキクサ」と呼ばれていたと考えられています。
ミツマタはあたかも春を告げるかのごとく一足先に淡い黄色の花を一斉に咲かせるため、それゆえに「先草」(サキクサ)と呼ばれたとも言われ、吉兆の草として「幸草」(サキクサ)とも呼ばれたようです。

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さて、そんなミツマタの森に守られるようにひっそりとある聖地・幣之池ですが、

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そこはこんこんと清水が湧き出し、優しげな水の氣に包まれていました。

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肌をしっとりと濡らすほどではありませんが、爽やかな潤いに癒されます。

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聖域の中心に、ちょこんとお坐りになられる「幣之池神社」(しでのいけじんじゃ)の御祭神は「抓津媛命」(つまつひめのみこと)。
かわいい。

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神話では樹木の神とされますが、むしろ水神ではないでしょうか。

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実際に幣之池では、雨乞いもなされていました。

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『延喜式神名帳』に記載のある「天健金草神社」(あまたけかなかやじんじゃ)の由緒によれば、祭神の一柱である抓津媛は、佐山の湧泉・幣之池のほとりに居を構えたと伝えられ、幣之池神社は天健金草神社の元宮であるとされています。

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都万川の水源であろう幣之池は、都万地区の命の源であり、聖域中の聖域であると言えます。
つまりは、抓津媛は隠岐島の有力勢力の媛巫女のお一人であったことは、間違いないでしょう。
しかしながら、彼女の名前は歴史に多くを残さず、富家伝承にも見ることはありません。

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鳥の声と水の音だけが響く、優しい聖域。
僕もまた、ミツマタの花が咲く頃にきっと、水の園を訪ねましょう。
愛しい媛神に会うために。

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