
「わたの原 八十島(やそしま)かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人(あま)の釣舟」
〔大海原の多くの島々を目指して漕ぎ出していったと、都にいる友人に伝えておくれ、漁師の釣舟よ〕
– 小野篁『百人一首』


島根県隠岐郡隠岐の島町都万那久にある「壇鏡の滝」(だんぎょうのたき)へやって来ました。

一つ目の鳥居から少し車で進むと、駐車できるスペースがあります。
そこにある二の鳥居からは歩いて行きますが、その鳥居の前に、立派な2本の杉の木があります。

昔、壇鏡神社に出雲大社の神殿修理に協力するよう文書が送られてきて、境内の杉の木を要求されました。
出雲大社の要望に村人は腹を立てたものの仕方なく、境内の杉を伐り出しましたが、その時神社の鳥居を本殿の方へ動かす者がいました。
男は、「こうしておけば鳥居の外の杉は壇鏡神社の所有でないことになる。」というので一同は感心して手伝って鳥居を動かしました。
それで今でも、この神社の鳥居の外には二本の杉の大木が残っています、とさ。

これから向かう壇鏡の滝は、横尾山を源流とする那久川の滝となります。

しっとりとした道をしばらく歩くと、見えて来ました。

壇鏡の滝は、高さ40mの雌滝と高さ50mの雄滝のふたつがあります。

手前にあるのは雌滝です。

サラサラと流れ落ち、滝壺は行場というよりも禊場といった風情です。

この渓流には、貴重なオキサンショウウオが多数生息しているのだそうです。
サラマンダーが棲まう、龍神の聖地ですな。

案内板に目を通すと、なんと、小野篁さんがお家に帰りたいと一心不乱に祈願したのが、この壇鏡の滝だといいます。

「小野篁」(おののたかむら)は、遣隋使・小野妹子(おののいもこ)の子孫で、延暦21年(802年)に生まれました。
身長は約188cmあったとされ、博学多才で、その才能が見込まれて52代「嵯峨天皇」(さがてんのう)や54代「仁明天皇」(にんみょうてんのう)に重用されました。

https://dl.ndl.go.jp/pid/778239/1/47
承和5年(838年)、嵯峨上皇より遣唐使(けんとうし)の副使に任命されていた小野篁でしたが、正使である藤原常嗣(ふじわらのつねつぐ)が、自身の船が破損して水漏れしているので、篁の船と交換されられることになりました。
これに対して篁は「己の利得のために他人に損害を押し付けるような道理に逆らった方法が罷り通るなら、面目なくて部下を率いることなど到底できない」と抗議し、さらに自身の病気や老母の世話が必要であることを理由に乗船を拒否しました。

それでも怒りが収まらない篁は、恨みの気持ちを含んだまま『西道謡』という遣唐使の事業、ひいては朝廷を風刺する漢詩を作り、この漢詩を読んだ嵯峨上皇を激怒させてしまいます。

こうして同年12月に、小野篁は官位剥奪の上で隠岐国へと流罪に処されたのでした。

さて、その篁が一心不乱に祈願したという滝は、おそらく雄滝の方かと思われます。

ズイズイと階段を登っていくと、

なんとも見事な滝が現れました。

雄滝の周辺には約550万年前の火山活動で噴出した地層が分布しており、滝の下部は主に火山灰が固結した岩石となっています。
火山灰は溶岩に比べて柔らかく侵食されやすいため、風雨や河川の侵食によって深くえぐられた形状になっていました。

この抉れた岩側に通路が設けられており、本来は「裏見の滝」となっています。
が、近年、落石による事故があり、現在はこの岩下への侵入が禁止されています。
確かに、岩壁にしても、石積みにしても、風化が顕著で事故に遭う可能性はあり、またそれを管理し切ることは不可能と言えます。

雄滝の下にある「壇鏡神社」は、祭神を「瀬織津姫命」とし、峯津神社の「諾浦姫命」、日吉神社の「大山咋命」、三保神社の「事代主命」を合祀します。
創立は不詳ですが、松尾山光山寺の二代目慶安法師が、夢のお告げを受けて険しい横尾山中をさまよっていると、目前に大きな壇鏡の滝が現れたと伝えられます。
法師は更に滝の上を少し登ると、もう一つの「源来の滝」があり、傍の壇の上に一個の神鏡を発見し、この滝の傍に小祠を建てて祀ったのが社名の起りであると伝えられています。

後世になって今の社地に祀られるようになったのが今の壇鏡神社で、寛永6年(1629年)の棟札があるそうです。
古文書には勝者(女神)の水 、火難防止、家運隆盛、海島守護、航海安全の神として古くから崇敬されたとある、水の聖域でした。



壇鏡の滝から、細い山道を車で少し登ったところに

小さな滝があります。
これが「源来の滝」。

ここに神鏡があったとされ、壇鏡神社のいわば元宮となる場所です。

壇鏡の滝から少し下ってくると、「小野篁在所跡」という案内板を見つけました。

この寺の2代目慶安が、夢の告げを受けて壇鏡の滝を見つけた人です。

小野篁の住みし所という寺は、今は礎石を残すのみとなり、小屋のような御堂が再建されているのみです。
その中には、篁の作と伝えられる焼けた仏像が安置されているとのこと。

篁は承和7年(840年)に許されて帰京するまで、この光山寺で過ごしていたといわれています。

彼はここから毎日、壇鏡の滝まで赴き、帰京を願って行を行っていたのでしょうか。

跡地となった寺は、篁の孤独な日々を物語っているかのようですが、実はそんな彼にも、ラブでロマンスなストーリーが、隠岐には伝えられていました。



さて、車を隠岐島・島後の北端まで走らせ、白鳥海岸までやって来ました。

駐車場から少し歩くと、

「白島崎展望台」に着きます。

展望台から日本海を望むと、眼下に青く広がる海原と、そこに浮かぶ白い島々を見る事ができます。

白島崎は白い岩石(アルカリ流紋岩)で構成されており、他の沖ノ島や白島は灰色(粗面岩)、帆掛島などは黒色(玄武石)と、3種類の火山石で成る珍しい岬です。
またこの辺りは、対馬暖流がもたらす湿気の影響で冬でもアジサイが咲いているのだとか。

隠岐に流された小野篁は、京に残した妻や親しい友人にあてて「わたの原~」の歌を詠みましたが、その場所がここだと云われています。

ただその場所については、摂津国の難波津(なにわづ)であるとか、出雲国の千酌駅(ちくみのうまや)であるとか、諸説あるようです。

海に大きく突き出た島が白島で、この場所で1番の聖域となります。
古くは雨乞いの聖地とされ、この一帯には龍宮伝説も残されていました。



隠岐の島町小路にある「願満寺」(かんまんじ)にやって来ました。

ここには、小野篁作と伝えられる仁王像と、本尊の薬師如来像があるとのことです。

とりあえず仁王像を拝見しましたが、格子越しの上、かなり朽ちかけている様子。
鑑定の結果、像は小野篁作で間違いないとのこと。
他には廃仏毀釈で失われた像も多いようです。

流刑の身に傷心し、帰京の思いで修行に明け暮れる小野篁かと思いきや、島内ではわりと自由に過ごしていた様子で、ある時茶屋で休憩していると、その家の娘である「阿古那」(あこな)と出会います。

阿古那は村一番の器量よしと言われていましたが、京男風情の篁はさぞかっこよく見えた事でしょう。
二人はいつしか恋仲となり、子をもうけたのでした。



小野篁と阿古那は、流刑の島でささやかな幸せを掴む事ができたような気がしていました。
しかし承和7年(840年)、篁は赦免となって都に戻ることが許されることになったのです。
その頃、もうけた幼子を亡くし、悲嘆にくれる阿古那は、せめて愛しい篁と一緒にいたいと、切に訴えました。
そこで篁が取った行動がなんと、

ヤツは木片を手に取ると地蔵を彫り
「これを二人の思い出と思って大切にしてネ・:*+.\(( °ω° ))/.:+」
と阿古那に与え、とっとと島を去ったのでした。
あゝ篁よ、小野篁よ、なんてお前はひどいヤツなんだ。。
配流先で女を作って、あまつさえ捨てたヤツ、前にもいたよね。
まったく歌人というヤツは、どいつもこいつも。

ちょっと、篁、人麿、そこに正座!

と、まあ、その時の地蔵が大切に安置されているのが、岐の島町上西にある「あごなし地蔵」だと云われています。

果たして、意気揚々、京に戻った小野篁は、閻魔大王とリア友になるというわけですが、なるほどその要素はあったわけです。
篁が阿古那を京に連れて行かなかったのは、危険な航海に彼女を連れていくわけにはいかなかった、と思いたいところですが、この時代の男どもは、旅先で作った女はだいたい置いて帰るというのがステータスのようでした。
令和になって男どもが弱体化した今こそ、女子勢は蜂起して復讐するべきだと、五条桐彦は思います。はい。

流刑から帰京まで僅か2年。その間に滝に打たれて、恋をして、子作りして、手彫り地蔵を手切れに女を捨てた男、小野篁。
阿古那よ、君は強い娘だ。そんな男のことは忘れて、島の優しい男と幸せになって欲しい。
そして冥界の篁よ、この無垢な小学生の和歌を、こころして読むが良い。
(これらはあくまで、伝承です☆)

阿古那さん すみません でもきっと一緒に過ごした日々は幸せだったと思います。切ないですね( ; ; )
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アコナは強い娘
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媛様たちを悲しませてはなりませんね。 だいぶ逆襲は始まっているようにも😜 昭和後期辺りからでも怖いもの知らずラスボス系女子たちに囲まれて育っていると、だた畏れ多くひれ伏すのみであります。(/–)/
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隠岐島では徳の高そうな人が流されてくると、その子種を求めて娘たちを差し出したそうです。
一見、男子が好き勝手生きているように見えて、いつの世も、実は女子族の手のひらを転がされているのかもしれません。
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💚
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