その昔、佐渡の村に”おとわ”ちゅう美しい乙女がいたっちゃ。
ある時、山菜採るために、おとわはいつものように山に入っていったっちゃ。
だどもその日に限って山菜が見つからね。そんでおとわは、今まで入ったことのねえ、山の深いところまで入って行ったっちゃ。
そこではこれまでにねえくらいの山菜があっての、山菜採りに夢中になるあまり、いつしかおとわは”入ってはならねえ”と教えられとった場所まで来てしもうとった。
慌てて帰ろうとしたが、ぬかるみで足滑らせて、着物の裾を汚してしもうた。
おとわが山降りていくと、ちいさな池があったすけ、そこで着物の裾に付いた泥を洗い落とそうと思ったんや。
すると池がざわざわと波立てて、大蛇が現れておとわに言うたっちゃ。
「ワシは山神に仕え、山を守る池の主ぢゃ。おぬしは人が入ってはならねえ山神の領域に入ってしもうたな。なればワシはおぬしを丸呑みにせんばなんねえが、ワシも老いて先は短い。おぬしはワシの代わりに、この池の主となって山を守れ」
おとわはたまげ、涙を流したっちゃ。
おとわは泣きながら大蛇に「3日の間だけ、里に帰らせてほしいちゃ」て言って、その願いが叶えらったっちゃ。
里に戻ったおとわは、気持ちの整理をして、3日後に約束通り、山へと入って行った。
それから7日の間は山は霧に閉ざされ、ついには大雨となったんぢゃ。
7日後、空が晴れたすけ、村んもんが山の池へ行くと、池には浮島が出来とった。
村人は、そん浮島は、池の主となったおとわが、山の神さんからもらったもんじゃろ、って噂したっちゃ。
以来、毎年7月23日には、乙和の霊を慰めるため、「乙和池まつり」が行われている。

大佐渡山脈を縦走する大佐渡スカイライン。
佐渡金山から両津港方面へ車を走らせていると、トビシマカンゾウの群生を見つけました。

ほんの一角ではありましたが、こんなにたくさん花が咲いているなんて。

さらに車を走らせ、大平高原付近で本道から未舗装の脇道に入ります。
心細くなるような林道を600mほど入り、行き止まりに車を止めて森の中に入っていくと、

「乙和池」（おとわいけ）がありました。

池の淵に細めの丸太で足場が組んであるのですが、ギリギリです。
今にも沈みそうだし、大丈夫なのか。
恐る恐る足を踏み出し、池を見ると、

すっご。。。
筆舌を尽しがたい景色が、そこにありました。

乙和池は深山の天然池で、ミズナラ、ブナ、ハウチワカエデ、ヤマモミジ、ハイイヌガヤ、ミヤマカンスゲなどなど、約200種もの植物による落葉広葉樹林が形成されています。
池に浮かぶ植物は「浮島」となっており、ノハナショウブ・サヤヌカグサ・エゾミソハギなどが密生しています。
島の中央には「井戸」と呼ばれる穴があり、島が浮揚する役目を果たしているとされます。

この不安定な足場の先に道がありました。
そこへ行くには、完全に足を水没させる可能性が高かったので行きませんでしたが、道の先からは浮島を上から見ることができ、ハートの形の井戸を見ることができたようです。
行けば良かった。

木の枝をよく見ると、あわあわしたものがくっついています。
これはモリアオガエルの卵。
モリアオガエルは恋の季節になると、大きなメスが樹木を登ります。
そこへすかさず小さなオスが飛びついてペアになり、メスは産卵を始めます。
すると産卵中のペアに次々と別のオスが割りこんで、逆ハーレム状態になるのだとか。

やがて卵からオタマジャクシになると、彼らは樹上のあわあわから真下の池にロケットダイブします。
その落ちてくるオタマを口を開けて待っているモノたちもいるらしく、モリアオガエルの一生もなかなか大変です。
ともあれ、この美しい乙和池に眠る乙女の精霊を感じつつ、恋するモリアオガエルに小さなエールをおくったのでしたっちゃ。