小富士・南崎:小笠原帰郷記 4日目

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“この世界の果て”と言ってしまえば、それは少し大袈裟かもしれないけど、確かにそこは、僕の世界の中では南の果てだった。
ついにここまで来たのだという思いが込み上げる。
旅とは結局、いくつもの果ての地を探し求める、終わりのない冒険なのかもしれない。
故に、旅は人生そのものである、とも言える。
このひとつの物語の先に僕が見つけたものは、小さな箱庭だった。
生まれる命があり、消えゆく命がある場所。
ひとつひとつの命に冒険があり、次の命が新しい冒険を紡いでいく。
種は違えど、魂はいつの時代もそこにある。
きっとそんな彼女の箱庭を僕に見せたかったのだろうと、思えたのだ。

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【4日目 AM 10:00】

都道最南端「母島南崎」へやって来ました。
ここから最南端の富士山「小富士」へ向けて、トレッキングします。

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南崎は字の如く南の崎であり、北部の母島観光と合わせて、母島を縦断するのが「PoCo*TaeKoni」さんの企画する「母島1日ツアー」の全貌となります。
「タエ&コニ」さんは母島で南国フルーツを中心とした小さな農園を営みながら、ツアーガイドをされています。
コニシさんは現在、農園の中に小さなゲストハウスをほぼ自力で製作している最中で、その様子も少し見させていただきましたが、とても素敵な宿になりそうでした。

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朝9:30に”ははじま丸”が母島の沖港に着き、宿に荷物を預けると、すぐに”タエコ”さんが車で迎えに来てくれました。

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「こちらにどうぞ~」
タエコさんの案内で車内に入ると、今日のツアーで一緒に参加する女性が一人、すでに車の中にいらっしゃいました。

・・・これは、・・マズい。。

僕の中で、緊張が走ります。

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「今日の参加はお二人となります。よろしくお願いしまーす」
「お、オナシャス!」

小笠原の赤い珊瑚・タエコさんのエスコートで始まる、今回の「母島1日ツアー」。
他にも数名の参加者がいるだろうと予想していましたが、まさか若き女子と僕だけ参加のツアーになるとは思っていませんでした。
しかも可愛いのです、その女子が。

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僕も若かりし頃はですね、電車が揺れるたびに女子高生がぶつかってくるという怪奇現象が起きるくらいには、モテた時期もありました。
しかし、もはやこの年代になるとですね、周囲に嫌悪感を抱かせないことに細心の注意を払って、息をころすように生きていくのが精一杯なのです。

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「今までは友人と旅行していましたが、最近は一人旅にハマっているんです♪」

という女子さんは、なんというか、可愛いと美人の間くらいの、話す声も可愛い女子さんでした。
人生に煤けたおっさ、大人な僕には、少し眩しすぎます。
先を歩く女子さんが振り返って顔が合った時なんかは、キュン死って本当にあるんだって、実感しました。

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そんな感じで甘酸っぱい風の吹く南崎ですが、かつて人が持ち込んで半野生化した猫によって、海鳥が消滅寸前までいった経緯があるそうです。
また同じく、人が知らずに持ち込んだ種子による外来種によって、固有種の植生に大きな影響が出たり、ネズミや外来のプラナリアによる捕食によって、希少な固有種のマイマイ(カタツムリ)が絶滅の危機に瀕していたりします。
これは小笠原諸島全般でいえることでもありますが、生態系保全のため、南崎はとても対策に力を入れている印象でした。

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森に入る前には、必ず靴底や服をきれいにしなければなりません。
南崎入口には、靴についた土を落とす場所があり、服を清掃するためのコロコロや、靴底を消毒するための木酢スプレーなどが用意されていました。
コーラル・タエコさんの指示に従って、僕も可愛いさんも、身を清めて森に入ります。

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森に入って少しすると、「蓮池」という場所がありました。
池と言ってもすでに陸化しており、オオサンカクイという外来植物に覆われています。
元はハスが栽培されていたことが名の由来だそうです。

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蓮池では南国らしい方に会いました。
この方は外来種の宿を借りておられますが、

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こちらのちっちゃい子の宿は、元は固有種のマイマイさんのお宅だったようです。

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森の中には、アリの駆除のための装置もあちこちに置かれています。
これは定期的に取り替える必要があるそうで、そうした活動をレンジャーの方々がなさっています。
とても尊く、そして気の遠くなるような活動です。

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40分ほど歩いてくると、

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「すり鉢」と呼ばれる、開けた場所に出ました。
ここで少し休憩です。

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風が気持ち良い。

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ここは名の通りすり鉢状になっているのですが、昔は母島の小学生らの遊び場で、オガサワラビロウの葉を尻に敷いて滑り台にしていたそうです。
楽しそう。

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さて、森の珊瑚・タエコさんと一人旅の妖精・可愛いさん、そして息をころしたおっさ、大人男子の僕らは再び森に入ります。

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きれいな紫の葉の何か。
これも外来種が、自生して繁殖したものだそうです。

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一列になった木は、ここが昔、畑だった頃の名残なのだそうです。
戦前はこの辺りも開拓され、作物が植えられていました。

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一列の木は境界と防風林の役目を果たしていましたが、長く放置されて退屈だったのか、正面から見ると”チューチュートレイン”になっていました。

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他にも、南崎ではクサヤの工場があったりと、かなり開拓されていたようです。
小笠原は手付かずの原生林が広がっているイメージでしたが、実情はかなり違って、一度開拓された島なのでした。
この後、「北村小学校跡地」でも感じることになりますが、人がいかに手を加えようとも、たかだか20数年放置しただけで、これほど森化してしまう自然のたくましさに感嘆します。

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絶滅する種がそこにあるのは深い悲嘆がありますが、外来種もまた果てしない時の先で固有種となるのかもしれません。

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自然の理を乱すのはいつだって人間ですが、そんな僕らの愚行さえ見守っている、そんな母の如き包容力をこの世界には感じます。

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人間もそろそろ反抗期は終えて、少しは母孝行しても良い頃合いではないかと思います。

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さて、可愛いさんの1番の希望は、”ハハジマメグロ”に会いたい、というものでした。
可愛いさんなだけあって、可愛いお願いです。

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ハハジマメグロは、特別天然記念物、絶滅危惧種の野鳥で、現在は母島、妹島、向島にのみ生息する固有種です。
有人島でハハジマメグロに出会えるのは母島のみ。
その希少さでは、あの北の白い妖精”シマエナガ”に匹敵します。
しかもハハジマメグロは、母島に来れば、必ず会える”幸せの黄色い妖精”なのです。

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南崎の森を歩いていると、そこかしこでハハジマメグロの声が聴こえてきます。姿も見えるのですが、何せ小さくすばしっこいので、なかなかフレームに収められません。
すると、コーラルベイビー・タエコさんが、どこからか雨水を溜めたペットボトルを持ってやって来ました。
そして木に設えた、平たい皿に水を注ぐと、

お~~~、か、かわゆい。
水を飲みに来たハハジマメグロも可愛いですが、それを一生懸命スマホカメラで撮っている可愛いさんも可愛いのでした。

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それで僕も望遠レンズを取り出して、ハハジマメグロを撮ってみるのですが、むずかし~。

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頑張ってなんとか撮れたショットがこれでした。
今はこれが、せいいっぱい🌹~🇯🇵~🏳️‍🌈~🏳️‍⚧️~🚩

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撮った写真を可愛いさんに見せてあげたかったけど、気恥ずかしさもあって、声かけできませんでした。
どんまい、おっさん。

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【PM 12:00】

最後の最後で、急な階段や梯子をよじ登ると、「小富士」頂上に到着です。
小富士は日本最南端の富士山ですが、標高は本家3,776mの1/44、86mのとても可愛らしい富士山です。

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山頂の絶景は、本家に決して劣らぬ美しさ。

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小富士の山頂には戦時中、砲台があったようで、その残骸が残されています。

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沖に見える大きめの島は鰹鳥島(かつおどりしま)。カツオドリの愛の巣の島です。

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奥に見えるチョンととんがった山が母島最高峰の乳房山(ちぶさやま)。
母島だから乳房山なのでしょうが、今日は可愛いさんがいらっしゃるので、下ネタは封印です。

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僕も岬の先端に立ってみます。
押すなよ、押すなよ、押すなってば!

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なんて一人漫才をすることもなく、先端から沖を眺めてみます。
なんだよ、快晴じゃないか。

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今回は特別なご褒美休暇をいただけたので、念願の小笠原に来ることができました。おそらくもうこんな休みは取れないだろうから、最初で最後の小笠原になることを覚悟して。
なので台風が来ないように祈って、願わくば晴天でありますようにと、善行を積んで参りました。
当日までドキドキでしたが、やって来てみれば天気も良く、イルカやウミガメ、グリーンペペやオガサワラオオコウモリ、ハハジマメグロ、気の良い宿のご主人やご夫婦、ナイトツアーのおやっさん、親切なレンタカーやさん、居酒屋さん、バーガーさん、マッチ船長とこころさん、ワイルド・コニシさんとタエコさん、可愛いさん、他にもたくさんの良き出会いがあり、ときめきがありで、僕の旅は恵まれているなと実感しました。

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ほんと、”ありがとう”しか、ないやろ。

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衣食住があって、美しい空と海と緑がある。
日々争って奪い合って生きている僕ら、朝から晩まで小さな画面を見つめ、誰かもわからない人の言葉に憂いている僕らが見失いつつある幸せは、きっとまだ奪われてはいない。
まだ生きていて良いと、幸せとはこれだよ、と思い出せる箱庭を、神様はこうして残してくれているのだから。

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【PM 1:00】

「下の海岸で昼食にしましょう」

タエコさんはそう言って、小富士をぐいぐい降りて行きました。
そして

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ビーーーーーーーーーチ!

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小富士の岬から見えていた海岸、「南崎海岸」に到着しました。
ここは砂浜ではなく、ゴツゴツとした石の浜でした。

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この石は珊瑚の石。
石の上を歩くと、キン、キンと甲高い音を奏でます。

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あれがさっきまで僕らがいた小富士。
下から見ても、可愛い。

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タエコさんとっておきの場所で、僕は可愛いさんの隣に(ちょっとだけ間を開けて)座り、昼食をとります。
母島に着いて買った、JAスーパーのパンを頬張って。

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目の前は珊瑚礁の海。
ここでランチなんて、さすが南の珊瑚・タエコさん。
春になったらタエコさんの農園でパッションフルーツを買おう。
そんなことを考えながら、潮風の吹く南の果ての神様の箱庭で、綺麗な海を眺めていたのでした。
 
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8件のコメント 追加

  1. Tomi Kaneko のアバター Tomi Kaneko より:

    素敵な場に、素敵な人達
    ”可愛いさん” 前回もちらっと写ってて、女性がフレームインするなんて珍しい!
    って思ってました。距離詰めず微笑ましい微妙なスタンスよーくわかります💦
    ハハジマメグロといえば、昭和50年頃発売された記念切手を親が買って
    なんて綺麗な鳥なんだろうと思った小学生時代。
    実物を拝めたのは初訪問の20歳時で、その時、涙出ました。
    可愛いさんの一言で、我が少年期を思い出しました。☺️

    いいね: 1人

    1. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

      小笠原は、そこに住む人も、棲む生き物たちも、また訪ねる人たちも、素敵な方ばかりです。
      また行きたいですね☺️

      いいね: 1人

  2. 不明 のアバター mstk より:

    完璧な旅の日記ですね。小笠原そのものの素晴らしさ加えて、五条さんの彩り方、切り抜き方が素敵です。行きたい場所リストに追加しました。

    いいね: 1人

    1. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

      ありがとうございます。
      ぜひ一度は訪ねたい楽園。
      困ったことに、もう一度行きたくなっております☺️

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  3. orededrum のアバター orededrum より:

    💛💚

    いいね: 1人

  4. Lincol Martín のアバター Lincol Martín より:

    なんと美しい物語でしょう。読者を世界の片隅へと誘うような、細部までこだわった物語です。あなたの感謝の気持ちと旅の魔法が、一行一行から伝わってきます。

    いいね: 1人

    1. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

      素敵なコメント、ありがとうございます。
      美しい島だからこそ紡げた、物語です😊

      いいね: 1人

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