
静岡県沼津市内浦長浜に、神津島の阿波命神社の元宮があるというので、訪ねてみました。
「長濱神社」(ながはまじんじゃ)です。

Googleマップを頼りにやって来ましたが、なかなか辿り着けません。
車を降りて見てみると、内浦漁港の近くの富士見トンネルの上にありました。

創建については詳しくは分かりませんが、由緒によれば、延喜式神名帳の田方郡24座のひとつ、「長濱神壮」に比定され、元禄11年7月に再建、元禄年間より神明宮と称す、とあります。

境内の様子は、どことなく離島の小社を思わせる雰囲気。

增訂豆州志稿によれば「長濱神社は今明神と云ふ、長濱村村社祭神阿波咩命なるべし、式内長濱神社也、按ずるに当社は神集島長濱神社の分祠にて阿波賣命を祀るならん」とあるようで、阿波命神社の元宮ではなく、分祠のようです。

狛犬は特徴的で、垂れ耳の長毛種。

どこかお猿さんのような風貌にも思えます。

マックイーンさんが「八丈島っぽい」という、丸石の石垣がありました。おかげでここに立っていると、僕も八丈島の風を感じられます。

さて、長濱神社の祭神は一時期、天照大神であったことがあるようですが、式内長濱神社として「阿波咩命」(あわのめのみこと)で間違い無いと思われます。

阿波咩命とは、いわば阿波姫のことですが、天石門別(タヂカラオ)の娘「天津羽羽神」としての阿波姫と、事代主本后としての阿波姫とが、ごっちゃになっています。
阿波姫は、阿波国の姫巫女のことであり、複数の阿波姫がいたと考えられます。これを一人の女性のことだと勘違いした、誤った認識が一般的になっています。
ヒミコを一人の人物だと思い込み、近畿説や九州説、果ては吉備説や阿波説などと不毛な永遠の論争を繰り返しているのと同じことです。

この由緒書の阿波姫の説明には、もうひとつ注意点があります。
事代主本后としての阿波姫はおそらく三島溝杙姫のことなのですが、多分ここで言っているのは、神津島の阿波命神社に伝わる話としての阿波姫であろうと思われます。
つまり、三嶋神の本后としての阿波姫ということで、三嶋神を事代主と解釈してしまったのだと考えられます。

しかし阿波命神社の本来の聖地に立てば、三嶋神とは富士の神を指していると言うことが理解され、つまり大山祇神の本后であると解釈するべきだと言うことが分かります。
おそらく、阿波命神社の阿波姫とは、幸姫を指しているのだろうと僕は推察します。



長濱神社の前の坂道をそのまま登っていくと、水族館の上に出ます。

そして何やら、ホテルのようなものがありました。

さて、社名の長濱とは、何故長濱なのでしょうか。
眼下には、確かに入江になった海岸線があるのですが、「浜」と呼べるようなものには見えません。
浜とは、砂や砂利のような堆積物でなだらかな陸地となった海岸線を言うのだろうと思うのですが。

これはおそらく、神津島の阿波命神社前の海岸が「長浜」とよばれているからなのでしょうが、ちょっと気になる別の話もあります。
大分にある「長浜神社」社伝によれば、室町時代の応永13年(1406年)、夢でお告げがあり、早朝に海岸に出てみると、木箱に納められた小さな祠を見つけた。祠には、扉の裏に「豫州長濱大明神」と記され、中には神鏡が納められていた。それで神社を建立して長濱大明神と称した、とあります。
つまり、愛媛に長濱神がいた、と云うことになります。
愛媛の長濱にこれと言った神社は見当たりませんが、南に下ると宇佐神宮の行幸会の最終地点である矢野八幡神社が鎮座しているのが面白いです。
八幡浜の八幡神社といえば、宇佐神宮の元宮ともいわれ、おそらく豊玉姫の遺体が宮島から宇佐へ運ばれる途中に立ち寄った仮宮だと思われます。

長浜とは、麗しき姫神に捧げられる神の浜の呼び名だったのではないでしょうか
また、当・長濱神社は、大正の初め頃に集落の南にある小比叡神社(白鬚神社)に合祀されたそうですが、その後、村内に疫病が流行し死者が続出したので、元の社地に復帰されたということです。

あんでぃ
国引き神話では、幸姫とされる佐比売山に杭を立てて、薗の長浜(=いなさのはま)ができていますね。
長浜姫と幸姫。。。
国と国をつなぐ存在としての姫巫女のイメージが湧いてきました。
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もう一つの杭は大山ではなかったでしょうか。サイノカミが国を紡いできたのかもしれません。
ところで、長浜姫という存在もあったのでしょうか?
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愛媛にあるとのことですが、出雲市の長浜神社に祀られる八束水臣津野命とのつながりはないでしょうか?
国引き神話には長い浜を作った神として描かれています。
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ご質問ありがとうございます。
長浜神社、といえば僕も出雲の長浜神社を思い浮かべました。
ただ、出雲の長浜は仰る通り、八束水臣津野、ひいては郷戸家ゆかりの浜ですので、あえてここでの考察は外しました。
しかし出雲にもワナサがあり、稲佐の浜はワナサの浜である可能性がありますので、阿波姫と関連があるのかもしれませんね。
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