
福岡県久留米の商店街にある「鳥喜」(とりよし)さんですが、

“やきとり”と看板に掲げてあり、店名も”鳥喜”とあるのですが、

やきとりのメニューは五種盛りだけ。なんでやねん。

いやいや、もちろんやきとりは美味しいんですが、鳥喜さんの魅力は、この有明海と筑後の珍味にあります。

わらすぼー。

このエイリアンと、食うか食われるかの死闘が始まります。

採れたての姿がこちら。

やはりグロい。食ったらお腹から出てくるやつやん。
最初に食べようと思った人にエールを送ります。

さよりの刺身なんてのも、初めて食べました。

一見イカのスルメに見えるこれは、うみたけの一夜干し。
少し生臭い味がしました。

くつぞこの姿煮。
まさにくつぞこ。

有明海の白えび揚げ。これ、ぷりぷりサクサクの絶品です!

有明海の白えびとは、北陸の白えびとは違い、芝海老と呼ばれるものです。
かつて東京・芝浦で多く漁獲されたことに由来する名ですが、埋立、汚染、漁獲過多などが重なり、今では限られた地域でしか採れなくなっています。

筑後の夏の風物詩、えつの刺身。
淡白で旨し。

鳥喜さんではカウンターに座ると、ご主人から楽しい話を色々と聞けて、お得です。
「えつは見たことあるかい?」
と尋ねられて、調理前のえつさんを見せてくれました。

えつはカタクチイワシ科の一種で、中国や朝鮮半島では東シナ海、黄海などに生息しますが、日本では九州の有明海湾奥部にしか棲んでおらず、5月~8月に産卵のため筑後川の上流に遡上します。
漁の解禁時期は毎年、5月1日~7月20日。
小骨の多い魚のため、一尾あたり両面にそれぞれ約150回包丁を入れる「骨切り」がなされるのですが、えつは鮮度が落ちると調理の際に破れてしまうほど繊細な魚なため、料理人の長い経験と円熟の技が要求されます。

えつにまつわる伝説に、あの徐福さんの逸話があります。
佐賀の浮盃にたどり着いた徐福が上陸の際、そこに群生する葦の葉を手で払いながら道を進んだため、その一帯の葦の葉は片葉となり、払った方の葉がえつに姿を変えたということです。

さて、有明海や筑後の非常に珍しい旬の食材を賞味できる鳥喜さんは、季節、その日によってメニューが違います。
その中でも初夏限定でおすすめなのは、えつもそうですが、やはりこれ。
穴じゃこ揚げです。

穴じゃこは干潟に穴を掘って巣を作ります。
この巣穴にナイロンテープを付けた筆を突っ込むと、異物を押し出そうとして入口付近まで出てくるので、これを捕獲するということです。

シャコに似ていますが、似て非なる生き物のようで、頭部はやや硬く、胴の殻はソフトシェルクラブのように柔らかいです。ソフトシェルクラブ食べたことはないけども。
頭から丸ごといただきます。ミソが濃厚で、身は甘め。旨し。

鳥喜さんのメニューは基本的に”時価”ですが、そうビビるほどお高くはありませんでした。かといって安いという訳でもありませんが。
地元では人気の店なので、おひとり様でも予約必須です。
有明海も、失敗百選に選ばれるという不名誉な諫早湾干拓(閉門)によって、死の海へと近づいています。
このような希少で豊かな珍味をいただけることに感謝して、久留米の街を後にしました。
