福岡県筑紫野市山家に上西山、下西山という所があります。
そこに鎮座する「寝手神社」（ねてじんじゃ）を訪ねて来ました。

下西山集落の小高い丘の上にある産神（うぶがみ）。

丘の下には「大行事」と彫られた大きめの石碑があります。大行事権現のことでしょうか。
滋賀県大津市にある日吉大社の摂社「大物忌神社」の旧称が大行事と称しており、大年神を祀ると云われています。

階段途中の小屋には、

薬師如来が祀られていました。

当地の伝承によれば、建久4年（1193年）源頼朝が富士の巻狩りを催したとき、白狐がはるばる九州まで逃げのびて来て、大根地権現（おおねちごんげん）から「よくここまで逃げ延びてきたものだ。 ゆっくり寝てゆけ」とねぎらわれたといい、それから寝手神社といわれるようになったということです。

なぜ、富士の巻狩りにまつわる話が当地に伝わっているのか？
2004年3月26日に発行された、筑紫野市教育委員会の広報誌によると、建久3年（1192年）に寝手神社の本宮である大根地神社に素戔嗚尊と大市姫命が合祀され、雲閣稲荷大明神（うんかくいなりだいみょうじん）になった時期、それと、伏見稲荷大社を中心に稲荷信仰が隆盛した時期、キツネが稲荷神の眷属とされるようになった時期が、頼朝の富士の巻狩りの時期と重なったからとしています。

うむむ、それはそうかもしれませんが、それだけではやや不自然な気もします。

富士の巻狩りには、大勢の御家人・勢子が参加し、その様子は「射手たる輩の群参、あげて計ふべからずと云々」と『吾妻鏡』に語られ、万単位の御家人・有力者がひしめき合う状況であったといいます。

さらに曾我兄弟の仇討ちなども起きており、混乱の最中、命を狙われた白狐たる何某かが九州まで逃れて来た、ということになろうかと思われます。

車を適当なところに止めて、細道を歩いていくと、上西山集落の寝手神社がありました。

なかなか立派な石段。

参道途中の石鳥居前には、立派なしめ縄もかけられていました。

先ほど、寝手神社の本宮を大根地神社であると言いましたが、上西山・下西山は大根地山の麓にあり、いずれの神社も大根地神社から勧請されたということです。

下西山寝手神社と上西山寝手神社を結んだ先には、さらに甕冠神社があり、こちらも大根地神社からの勧請となるようです。

しかし二つの寝手神社を参拝してみて不思議なのは、稲荷っぽさがあまり感じられないということです。

大根地神社は、神功皇后が羽白熊鷲の征伐や三韓出兵の勝利を祈願して天神七代・地神五代を祀ったのが創建とされていますが、その実態は完全に稲荷信仰です。

寝手神社の祭神というのが、今一つよく理解できませんが、雲閣稲荷大明神か大根地権現ということで良いのでしょうか。
それとも、逃げて来たという白狐か。
いずれにしても、もう少し稲荷社っぽくても良いのではと思ってしまいます。

それにしても、上も下も、やたら石を強調していますね。

上西山寝手神社の本殿は、拝殿からさらに高いところに鎮座していました。

集落から離れて、山に少し入り込んだところまで車で進みます。

そこの山家地区に甕冠神社（かめかむりじんじゃ）がありました。

しっとりとした聖域。
そして甕冠神社は確かに、稲荷社のそれでした。

社頭の「甕冠神社の由来には」、次のように記されていました。
今から約700年前の延文4年（1358年）、肥後の忠臣「菊池武光」一家が筑後川を渡り、大保原（現在の小郡市）近くの合戦で敗れ、大根地の大権現様に戦勝祈願をしたところ、御利益あらたかにして敵将「少弐頼尚」「大友氏時」の連合軍を撃破しました。
菊池氏はこれにより大根地神社と甕冠神社とを合せ祀り、永くその祭祀を怠らなかったといわれています。

この甕冠神社の鎮座年号はわからないが、寛永11年（1671年）の再建で平島与兵衛と刻した大甕を奉納。
これがため甕冠神社と称されるようになったとのこと。
商売試験等の開運の神として初午は山路をいとわず福岡飯塚朝倉方面からのお参りが多い。
氏子中

以上。

分かったような分からないような由緒ですが、菊池武光一家が戦勝祈願した時には、すでにこの社があったのでしょうか。それともこの時、菊池氏が創建したのでしょうか。
甕冠神社の鎮座年号は不詳だと改めて記述していますので、それ以前から社はあった、ということなのでしょう。

少なくとも、寛永11年の再建の時に、平島与兵衛と刻した大甕が奉納されたので、甕冠神社と呼ばれるようになったようです。
奉納品はたくさんあったでしょうに、何故、平島与兵衛の大甕が社名に取り上げられたのかも不明です。

本殿？にあたる石の祠は、紛うことなき稲荷社でした。
大根地神社の祠とよく似ています。

甕冠神社は大根地山の登山道入口の一つとなっており、大根地山の御神水が、滔々と湧き流れていました。