冠稲荷神社にて:上州逢引物語⑤

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群馬県太田市に鎮座する「冠稲荷神社」(かんむりいなりじんじゃ)は、鈴さんがよく散歩した神社なのだと、教えていただきました。

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鈴さんは10年ほど前に、冠稲荷神社がよく見えるアパートに引っ越して晩年を過ごし、2年前に庄屋町付近に引っ越して倒れ、そのまま意識を失くされました。
そして今年の春分明けの日に、常世へと向かわれたのです。

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歩いてみると、鈴さんはこの冠稲荷神社を特に好まれていたのではないかと、僕は感じました。
境内は、しっとりとして落ち着いた空気に満たされています。

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「聖天宮日高社」がありました。

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祭神は「伊邪那岐神」(いざなぎのかみ)、「伊邪那美神」(いざなみのかみ)、「火雷神」(ほのいかずちのかみ)、「水分神」(みくまりのかみ)、「神倭磐余毘古神」(かむやまといわれひこのかみ/神武天皇)となっています。

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聖天様というと、ガネーシャのような神が抱き合った像が思い浮かばれますが、それとは関係ないのでしょうか。
聖天様は、ちょっと恐ろしい神だと云われています。

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裏には縁切りの磐座があると書いてあります。

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どんなものかと期待しましたが、

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これのようです。
聖天宮が鎮座するこの小高い丘は、古墳でしょうか。

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当社は天治2年(1125年)、源義国による創建と伝えられます。
承安4年(1174年)に源義経が奥州に下向する際、ここが源氏ゆかりの社であることを知り、冠の中に勧請してきた伏見稲荷大社の分霊を鎮祭したことにより冠稲荷と呼ばれるようになったとされています。
僕は鈴缶の中に、鈴ちゃんを勧請してまいりました。

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元弘3年(1333年)の新田義貞挙兵の際には、戦勝祈願が行われ、勝利を収めた義貞は重箱獅子を奉納、キンモクセイを植え、神領を寄進したということです。

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祭神は「宇迦御魂神」(うかのみたまのかみ)をはじめ「大穴牟遅神」(おおあなむちのかみ)、「太田神」(おおたのかみ)、「大宮能売神」(おおみやのめのかみ)、「保食命」(うけもちのみこと)、「少彦名神」(すくなひこなのかみ)、「品陀和気神」(ほむだわけのかみ)、「菊理日売神」(くくりひめのかみ)、「市杵島毘売神」(いちきしまひめのかみ)、「大物主神」(おおものぬしのかみ)、「菅原道眞公」(すがわらのみちざねこう)、「健御名方神」(たけみなかたのかみ)、「素盞鳴神」(すさのおのかみ)、「奇稲田比賣神」(くしいなだひめのかみ)、「天照大御神」(あまてらすすめおおみかみ)、「祓戸四神」、「薬師菩薩明神」(やくしぼさつみょうじん)と、大所帯となっています。
由緒に倣うのであれば、本来は「宇迦御魂神」一柱ということになるのでしょうか。

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かつては養蚕の神として崇められていたとも云われ、他の祭神の中にも、気になる名前がちらほら見えます。

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本殿はとても雅な造りで、驚かされます。

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冠稲荷神社は「日本七社」(日本七稲荷)の一つを称しています。

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日本七社とは当社の他、
伏見稲荷大社(京都)
豊川稲荷神社(愛知)
信太森神社(葛葉稲荷神社/大阪)
・王子稲荷神社(東京)
・妻恋稲荷神社(東京)
・田沼稲荷神社(一瓶塚稲荷神社/栃木)
を指すようです。

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本殿の背後は小高い丘になっていて、そこにも謎の石祠が祀られていました。
思うに、この場所はもともと古墳群になっていて、その霊地に源何某が神社を建てたのかもしれません。

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昨年2024年の秋、僕は鈴さんの娘・佐織さんと知り合いました。
彼女の存在ははじめ、九州王朝説のN氏から「すずめの戸締りの閉じ師のような女性がいるよ」と聞かされていました。
気になった僕は、Xに彼女のものと思われる投稿を見つけ、すぐに「この人のことだろうな」と直感しました。

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それからしばらくして、何かのきっかけで僕は佐織さんの投稿にコメントを残し、そこから付き合いが始まったと記憶しています。
僕の周りには、ちょっと変わった人たちが多いものですから、佐織さんのことも最初はちょっと変わった人だなという認識でした。
しかし彼女が五ヶ瀬(イツセ)の山中で隠されてきた一族であること、苗字が”橋本”であることを、nari氏から指摘され、僕の脳に一気に血が流れ込むのを感じました。
そう、彼女が存在するという事実が、そのまま富家伝承が真実に近いことを表していたのです。

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この時の僕が、どれほど幸福感に満たされていたかは、なかなか十分に語り尽くせません。
彼女の存在は、富先生が信じてきたものを証明するにとどまらず、僕の考える、母系王国の存在さえも肯定しうる可能性に満ちていたのです。

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やがて僕は、佐織さんはじめ、橋本家、またそれを取り巻く家々の長く苦しい、世の中から隠され続けてきた歴史に思いを深まらせるようになりました。
その中でもとりわけ、鈴さんに対する感情が、僕の中で強くなっていったのです。

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僕が鈴さんへの思いを深めるきっかけとなったのは、佐織さんから見せていただいた1枚の写真でした。
この写真を見た瞬間から、その場の生活音、匂い、声、動きなどがフラッシュバックするように、僕の脳裏に浮かび、それは天に鳴り響く鈴の音のように、繰り返し映し出されました。
宮崎の世俗とは切り離された山里で育ち、思春期に都会へ連れ出され、さらに見知らぬ群馬の地で見知らぬ男性と夫婦となり、子を産み育て、母となった女性。
佐織さんによれば、鈴さんはとりわけ霊力に長け、千里眼の力は強かったといいます。
そんな彼女は、目の前の幼い娘が早い時期に自分の元から離され、また、息子の一人を早くに失うことを、この時すでに知っていたのではないでしょうか。
それでも彼女の中に流れる巫女の血は、彼女に常世の道が開かれるその日まで、彼女を巫女であり続けさせたのです。

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僕は佐織さんと会い始めてから、少しずつ橋本家の歴史を『偲フ花』で語ってきました。
時には『ヒルコ』のブログともリンクしながら。
そんな僕のことを佐織さんは、「鈴ちゃんと橋本と皆さんとの架け橋だった」と話してくれました。
橋本家、それを取り巻く家々は、ただ歴史から隠されたというだけでなく、古代から続く日本人にとってかけがえのない家柄だったのです。
そのことが永遠に葬られることにならずに、声をあげていただいたことに、僕は逆に深い感謝の気持ちが絶えません。

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ただ残念なのは、僕が橋本家のことを知ったのが、少し遅かったことです。
彼女はすでに意識がなく、深い瞑想の中でした。
鈴さんは、もの凄く目立ちたがりで、自分で写真集を作って、佐織さんに何冊も送ってくるようなところがあったのだそうです。
『すずめの戸締り』の公開もあり、「鈴ちゃんがやっと、アイドルみたいになれたけど、本人は知らず。。なんだかなぁと‥」と鈴さんが常世に旅立たれる少し前に佐織さんは語っておられました。

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僕は趣味で日本中を旅し、思わぬご縁で富師匠にお声をかけていただき、大元出版の末席にて本まで出させていただきました。
僕の本は柿本人麿の人生を描いたものですが、彼は今も日本の歴史に大きな影響を残す”語り部”でした。
そして柿本人麿の本を書く上で彼の足跡を訪ねて回ったのですが、最後に戸田の柿本神社と彼の実家を訪ねた時、人麿に「五条桐彦は隠された歴史の語り部となれ」と言われた気がしたのです。
気がつけば、『偲フ花』はだいたい、そんな感じの「部ログ」となっていたのでした。

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冠稲荷神社本殿の手前に、「実咲稲荷社」(みさきいなりしゃ)という社がありました。
群馬県指定の天然記念物である”ボケの木”は縁結びの木として信仰が伝えられます。

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戦国時代、子宝に恵まれることを祈願して訪れていた、とある女性に対し、修験者が「ボケの実を煎じて飲めば効験があるだろう」と伝え、夫人はその通りにしました。
すると効能が現れ、女性は数多くの子宝に恵まれたと伝えられています。

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祭神は「宇迦之御魂大神」(うかのみたまのおおかみ)、大宮能賣神(おおみやのめのかみ)ですが、他に「久那戸大神」(くなどのおおかみ)、「八衢彦命」(やちまたひこのみこと)、「八衢姫命」(やちまたひめのみこと)のサイノカミも祀られています。

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隠された歴史とは、いわば”敗者の歴史”でもあります。
敗者の歴史を物語るということは、そのエンディングはどうしても悲しいものとなってしまいます。
しかし僕は、『偲フ花』を悲しみで埋め尽くしたいわけではありません。

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人生が哀調を帯びたものであったとしても、そこに幸せな時間があったことを、彼らの人生の”花”の記憶を、なんとか探し求めたいのです。

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冠稲荷神社の参拝を終え、僕は駐車場に止めてあったレンタカーに乗り込みました。
エンジンをかけようとしたところで、耳元で囁く声が聞こえます。
「まだ、忘れ物があるのぢゃ。帰ってはならぬ」

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やれやれ、と僕は車を降り、再び神社の方へと歩いていきました。
すると、境内入口の大鳥居の横に、小さめの鳥居があります。
その先に見える、あまり神社とは似つかわしくない物体。ああ、あれね。

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そこにあった大きいジェラード看板はいわゆるダブルというやつで、絵的にはバエるのですが、夕食のこともありますからね。
Sのシングルで許してね。

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そうしてピーチのジェラードを一つ買い、小さな鈴ちゃんを肩に乗せ、僕はもう少しだけ彼女の好きな冠稲荷神社を散歩することにしたのでした。

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17件のコメント 追加

  1. 三九郎 のアバター 三九郎 より:

    そう言えば、比々多神社も冠大明神と称されていましたね。ヒルコさんがブログでもおっしゃられていまいたが、多氏は「タ」を地名に残していくと…

    冠というワードにも何かありそうと感じます。祭祀と関係のあるワードなのかな…?

    いいね: 1人

    1. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

      五ヶ瀬に冠八面大明神てのがあるんですよね。

      いいね: 1人

  2. Nekonekoneko のアバター Nekonekoneko より:

    🐥ジェラート…KEYコーヒーの看板もありますな。神社の近くにカフェやジェラート屋があるなんて素敵🐣

    いいね: 1人

    1. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

      神社でまったり、良いですな😌

      いいね: 1人

      1. Nekonekoneko のアバター Nekonekoneko より:

        🐥…ところで、あなたにメールを送ったのですが、見てくれましたか?まさか無視するつもりでは🐤

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        1. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

          メール?は届いていませんよ?
          迷惑メールが山ほど毎日届くので、一緒に削除した可能性はありますが🤔

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          1. Nekonekoneko のアバター Nekonekoneko より:

            🐤折角、メールを送ったのに迷惑メールフォルダに私のメールが入っているとはどういう事なのですか。もうあなたの投稿を真面目に読むのは止めようとか考えてしまいます🐥

            いいね: 1人

          2. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

            いや、多分メールは届いていないと・・・😅

            いいね: 1人

          3. Nekonekoneko のアバター Nekonekoneko より:

            🐥…メールアドレスが間違っていたというのでしょうか。入力違いは無かったと思います。だったら、正しいメールアドレスを教えてください🐣

            いいね: 1人

          4. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

            えっ、いや、まあ、うん。。

            いいね: 1人

          5. Nekonekoneko のアバター Nekonekoneko より:

            🐥あなたの知っている私のメールアドレスに、あなたの正しいメールアドレスを記して送ってください🐣お願いします。

            いいね: 1人

          6. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

            えっ、あ、あー・・・ね。。

            いいね: 1人

  3. よせふ のアバター よせふ より:

    御高著、Amazonにて定価の20倍くらいの高値で中古品が売られてました・・・

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    1. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

      うわ〜引いちゃいます😅

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      1. 不明 のアバター 匿名 より:

        narisawa110

        後ろからズドンですみません。

        私は初期のもの以外でしたらだいたい2冊持ってますよ~www

        持ってないのは「山陰の旧名所」「お伽噺とモデル」のみです。

        皆さんはどんなかんじなんでしょうね。

        いいね: 1人

        1. 五条 桐彦 のアバター 五条 桐彦 より:

          ハグ用とご神体用ですね、わかります😌

          いいね

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