麗しき常世の姫君・菊理姫に逢いたい。
いつの頃からか憧れの聖地となっていた越の白嶺「白山」（はくさん）へ、想いを遂げるため、ついに僕は旅立つことにしたのです。

白山は石川県と福井県、岐阜県にまたがる標高2,702mの活火山です。

古くから信仰のある霊山で、富士山、立山と共に日本三霊山の一つとされています。

白山の登山コースはいくつか整備されていますが、僕は一番ポピュラーでビギナー向けの、別当出合から砂防新道を進むコースを選択。
中飯場と甚之助避難小屋を中継して黒ボコ岩、そして室堂センターを目指します。室堂で1泊し、翌早朝から御前峰を目指してご来光を拝するというプランです。

日本最高峰・富士山、四国最高峰・石鎚山、出羽三山・月山、などなど、数々の霊峰を克服して来た僕にもはや敵なし。
レッツゴー！

登り始めた時は、そう思っていました。

が、それは本当に、虚弱で矮小な人間の思い上がりであると、このあと僕は死ぬほど思い知らされることとなりました。

いきなりずっとこんな道です。

トニカクキツイ。モウカエリタイ。

予報では晴れだったのに雲行きも怪しくなってきました。
まこと山の天気と女心は移ろいやすいのです。

避難小屋のある「中飯場」まで来ました。
出発地点の別当出合からここまで1時間。

ちょっと早めでしたが、少しでも荷物を軽くしたかったので昼食にします。
空港で買ったお弁当、美味しそう♪

腹を満たしたら再出発ですが、

モウイヤダ・・・

普通ビギナークラスの登山道は、急登となだらかな道が交互にあったりしますが、

ひたすら急登・・・

最初から最後まで

急登。

本当にこれがビギナーコースなのでしょうか。
僕はビギナー以下のミジンコでしょうか。

僕のチンケな自尊心が、瓦礫となって崩れていきます。

かれこれ2時間ほど登っていますが、すれ違う下山の人はいますが、追い越した人も、追い越していく人もいません。
今日登っているのは、ひょっとして僕だけなのでは。もう、帰ってもいいよね。

なぜなら頑張って登っても、どうせ山頂は真っ白です。下手すれば雨でしょう。

せめて明日、晴れ予報が出ていれば気持ちも上向くのですが、見事にC判定。

次のポイントまで登ったら、降りよう。
次のポイントまで登ったら、降りよう。
次のポイントまで登ったら、降りよう。

そうぶつぶつ漏らしながら、登っていました。

ようやく甚之助避難小屋まで来ました。別当出合から室堂までの中間地点です。ここまでの時間、2時間半強。
もう無理。もうゴールしてもイイヨネ。

「VR山」アプリで確認してみます。分かってはいましたが、真っ白です。
もう降りるか。

しかしここからも少し登ると、磐座があるらしい。磐座まで、行くか。

今回はトラブル続きの登山ですが、最大の失敗は、小松空港からのレンタカー送迎車内に、あろうことかカメラのサブバックを置き忘れてきたことです。
カメラのサブバックには、予備のバッテリーと望遠・広角などの替えレンズが。レンズはまあ、良いとして、バッテリーが心許ない。

甚之助避難小屋があんなに小さく。牧歌的な風景が広がります。

さて、行くか。

だい～ぶ登ってきましたが、磐座ちゃんの姿が見えません。
落石に注意してって言われても、もはや落石を避ける気力もありません。
時折ガスに覆われ、雲が急激に流れている様を感じます。

この磐座直前の急登は、本当に心が折れます。
逝きかけます。

延命水なる場所がありましたが、水量はかなり少ない。というか水滴が落ちてる程度。
水滴を掬い取って、口に運び、少しでもHPを回復させます。

もう無理だー、そう涙をこらえて空を見上げれば、おお、なんか石っぽいのがある。

白山なのに黒い岩。

巨大な岩がゲートのように立ち塞がります。

これが聖なる山の磐座、「黒ボコ岩」と呼ばれる火山弾です。

白山の火砕流によって山頂から運ばれてきたものだそうです。
つまり元は山頂にあった巨大火山弾ですね。

そしてこの黒ボコ岩の上には、登ることができます。

爬虫類系の顔のような岩。

白山の山頂周辺は成層火山で、30～40万年前から火山活動を始めたとされています。

約10万年前、 山頂北側の地獄谷付近に古白山火山が形成、約3～4万年前に現在の山頂部に新白山火山が形成されました。

『続日本紀』には、慶雲3年（706年）に白山の噴火により山火事が発生したと記されています。

最も新しい噴火は万治2年（1659年）となっています。

黒ボコ岩まで登ったら帰ろう。
ライフ０の僕はそう決心していましたが、このなだらかな弥陀ヶ原を見たら、もう少し歩いてみたくなりました。

月山や立山など、山を登っていて度々思いますが、2,700mクラスの山頂付近にこんな天空の楽園があるというのが驚きです。
全ての疲れが、女神の慈愛で癒されるようです。

もう少し、登ってみよう。

振り返ると、弥陀ヶ原の木道があんなに小さく見えています。すると、

なんと、室堂に到着してしまいました。
結局登ってきてしまいました。ここまで5時間弱。
室堂は財団法人 白山観光協会が運営する有人の山小屋で、食事もできます。
室堂に来てみれば、結構な数の登山客がいました。なんだ僕だけじゃなかったのか。

室堂ビジターセンターの裏手には、白山奥宮の祈祷殿が鎮座しています。

背後に白山最高峰の「御前峰」の山容を望めるはずが、やはり真っ白。分かっていましたけどね。

せっかくここまで来たのなら、選ばれし者だけが頂戴できる黄金水を飲まない手はないです。
麗しき姫に乾杯！
下戸な僕はたちまち酔っ払います。

すると、あれあれ。
まこと山の天気と女神心は移ろいやすい。
日暮れ間近、急に空が晴れ、菊理姫坐します美しき白山・御前峰、その山容が僕の目の前に現れたのです。
なんと神々しいその姿。
彼女が僕の前に姿を現したのは、わずか15分ほどでした。なかなかのツンデレさんです。
それにしてもやっぱり、

オレって愛されてるじゃん！