「稲生武太夫」(いのうぶだゆう)は、三次藩士の子で幼名を「平太郎」という。
三次地方に伝わる『稲生物怪録』(いのうもののけろく、いのうぶっかいろく)は、江戸時代に実在した16歳の少年・平太郎が体験した妖にまつわる話である。
寛延2年(1749年)、備後の国・三次5月のことである。
平太郎は弟・勝弥と家来の権平と共に暮らしていた。
そこへ近所に住む力持ちが自慢の権八という男が、平太郎の家を訪ねて言った。
「俺は今まで恐いという経験したことが一度も無い。平太郎、今夜たたり岩があるという比熊山に登って肝試しをしようじゃないか」
「承知した」
二人は夜になるのを待った。
あたりが暗くなると、二人は百物語を始めた。
互いに恐ろしい妖の話をし続けたが、別に二人とも怯えることはなかった。
話し終えると権八は木の札を持ち出した。
「比熊山に上った証拠に、この木の札を頂上に置いてこよう」
それで丑三つ時になると、二人はそれぞれ別に山を登り始めたのだった。
真夜中の比熊山は不気味ではあったが、平太郎は何事もなく頂上へ着いた。
彼はたたり岩の上に木札を置いて下山する。
「たいしたことなかったな」
そう思った平太郎であったが、それは2ヶ月後から始まることとなった。
7月1日、権八宅に一つ目童子が現れた。
平太郎宅には毛むくじゃらの手の大男が現れ、平太郎をわしづかみにした。大男の目は太陽のように光っている。
平太郎が刀で斬りつけると、大男は姿を消した。
2日、昨夜の怪異について平太郎宅で権八が話し合っていると、突然、行灯の火が天井まで燃え上がった。
しかしそこから燃え広がることもなく、権八は家に帰り、平太郎は布団を敷いて寝転がることにした。
今度は床から大量の水がざぶざぶとわき出してくる。
しかし平太郎は気にも留めず、そのまま眠ってしまった。
翌朝、焼け跡は見当たらず、水も消えていた。
3日、居間から女の生首が笑いながら飛んできて、平太郎の顔をなめ回した。
「気持ちわるっ」
平太郎は少し顔をしかめた。
そして天井からはたくさんの瓢箪がぶら下がっておちてきた。
(青瓢箪の怪)
4日、茶釜のふたが凍って開かず、紙が蝶のように舞いはじめた。
掃除が面倒だったが、だからどうというわけではなかった。
5日、大きな石にたくさんの足が生えて、カニのような目をつけてがさごそと這い回ってきた。
居合わせた権八が叩き斬ろうとしたが、平太郎は「相手にするなよ」と嗜めた。
6日、巨大な老婆の顔が戸口から平太郎を見つめていた。
平太郎は近くにあった小柄を老婆の眉間に打ち込んでみたが、なんの変化もない。
翌朝起きて見ると、打ち込んだ小柄はしばらく宙に浮いていて、ぽとりと落ちた。
7日、門に大きな坊主が現れた。
権八らが槍で突いたが、逆に槍を奪われてしまう。
家の中に入ると、外からその槍が投げ込まれてきた。
少々どきりとしたが、誰も怪我をすることはなかった。
8日、平太郎は親戚の者と妖について話をしていた。
すると塩俵が二つ三つ飛んで来て、塩を撒き始めた。
今度は高下駄が、ふすまを破って飛び出した。
やれやれ、平太郎は少し迷惑に思った。
9日、今度は妖が知人の弟に化けてやってきた。
彼は名刀だという刀で石臼の化け物に斬りつけたが、「刃こぼれしてしまった、兄に申し訳がたたぬ」とそのまま切腹した。
遺体は消え、今度は幽霊の姿になって平太郎に愚痴を言う。
平太郎は面倒くさかったので相手にしなかった。
10日、知人が平太郎宅にやってきたが、彼の頭から、赤子が二人、三人と這い出してきた。
知人に化けて出てこられるのは困ったものだし、ちょっとキモかった。
11日、平太郎宅を訪れた知人の刀のさやが無くなり、天井から落ちてきた。
平太郎を訪ねてきた女を、大きなたらいが追いかけまわし、女は逃げ出してしまった。
12日、押入から大きなひきがえるが現れた。
腹から赤いひもがぶら下がっていたので、平太郎はそれを握って寝てしまう。
次の日起きると、ひきがえるは葛籠になっていた。
(祈祷札の怪)
13日、平太郎と友人らが寺に行く途中、赤く光る石が空から落ちてきて親友の腰に当たった。
幸い大事には至らなかったが、仕方なく平太郎は親友を家まで背負って帰ることにした。
14日、裏の部屋から物音がするので見てみると、臼が勝手に動いていた。
平太郎は米を入れてみたが、米に変化はなかった。
その夜中、天井に巨大な老婆の顔が再び現れ、平太郎の顔をなめまわした。
15日、夜になると、畳や、なにもかもが糊のようにねばつきだした。
平太郎は柱に寄りかかって寝ることにした。
16日、たくさんの生首が平太郎の枕元をはねまわって騒々しかった。
17日、親友の刀が消え、探してみると、蚊帳の上にあった。
しばらくすると机や菓子鉢が飛び回りだした。
18日、奥の間の畳が天井にぶら下げられていた。
夜になると、錫杖が勝手に鳴りだした。
地味な嫌がらせだ。
19日、平太郎は罠を仕掛けてみたが、妖に見破られ、屋根の上に投げ捨てられた。
罠を勧めた名人は「狐か狸の仕業とは思えぬ。これぞまさに妖怪のなせる技」と恐れ入った。
20日、美女が菓子を持って見舞いに来た。平太郎が女を門まで見送ると、姿が消えた。
菓子箱は隣の家のものだった。
21日、行灯に人影が映っており、声を出して書物を読んでいたが、何を言っているのかわからなかった。
22日、朝起きてみると、ほうきが勝手に居間の中をはいていた。
ルンバの始まりである。
23日、天井が蜂の巣になっていた。
24日、大きな蝶が部屋に飛来し、柱に当たるとたくさんの小さな蝶になって部屋中を飛び回った。
夜になると行灯が大きく燃え上がった。
25日、縁側に降り、足もとをみると大入道がいた。
泥に足をつっこんだように粘り着いて面倒だった。
26日、女の首が枕元に現れて、平太郎の体をなめまわした。
27日、昼というのに部屋が薄暗くなった。
夜になるとどこからか拍子木の音が聞こえてきた。
28日、尺八の音とともに、何人もの虚無僧が平太郎の家の中いっぱいに入ってきた。
むさくるしい。
29日、生ぬるい風と共に蛍火が部屋中に飛び込んできた。
30日、裃を着た四十歳くらいの武士が部屋に入ってくる。
部屋の炉の灰が大きな頭になり、中からミミズが飛び出してきた。
壁には目玉の妖が覗き見ている。
「拙者は山ン本五郎左衛門ともうす妖の主である。神ン野悪五郎と魔王の頭の座をかけて賭けをしておった。
先に勇気ある少年を100人驚かせた方が妖の総大将となるという賭けのもと、拙者はインド、中国、日本と渡り歩いて86人目にお主に会った。
だが、お主はどうしても驚くことがなかった。拙者はまた最初からやり直しをせねばならぬ。
そなたのような勇気のある者を拙者は知らず、真に感嘆した。よって拙者をいつでも呼び出せる小槌を与えよう」
山ン本五郎左衛門は木槌を平太郎に手渡すと、多くの妖怪が担ぐかごに乗って雲のかなたに消えていった。
かごからは山ン本の毛むくじゃらの足が覗き見えていた。
この木槌は広島市東区の國前寺に寺宝として後に伝えられているという。
ルンバみたいなホウキのところで大笑い、テレビショッピングで売れそうです。
いいねいいね: 1人
段差も角の隅っこも問題なし!
ルンバより高性能ですね(笑)
いいねいいね: 1人