長野市北西部の山中に佇む聖域、「戸隠神社」(とがくしじんじゃ)へ、念願叶って参拝することができました。
戸隠神社は五社からなる神社の総称ですが、その聖域の入り口に「一之鳥居」があると聞いたので、まずはそこを目指します。
が、出雲大社のような大鳥居を想像するもその姿を見つけることができません。
ナビの指し示す駐車場に車を停め、広く緩やかな登り道を歩いていきます。
坂を登りつめたところは広場になっていますが、やはり鳥居を見つけることはできません。
と、一つの看板を見かけました。
「一の鳥居建立跡地」とあります。
見れば鳥居の残骸らしきものが置かれていました。
ナビをよく見れば、「一の鳥居苑地」(いちのとりいえんち)と記されています。
そう、ここにかつて、戸隠神社の神領への入り口として一之鳥居が建っていたのでした。
寛政年間(1789年ごろ)に立派な石造りの鳥居が建てられたそうなのですが、弘化四年(1847年)、推定マグニチュード7.4の直下型地震「善光寺地震」によって倒壊。
現在は当時の石材や基礎が残るのみの姿となっています。
地震後、石材不足から鳥居はそのまま放置され、約40年後の明治19年(1886年)に木造の鳥居が再建されました。
しかしそれも昭和になって、老朽化のため取り壊されています。
跡地のそばに、「六十六部供養塔」(ろくじゅうろくぶくようとう)が残されていますが、この裏には「文化戌辰年五月吉日 是より戸かくし迄五十二丁」と刻まれており、一番麓の戸隠神社「宝光社」までは約5.6kmあることを示しています。
一の鳥居苑地を後にしながら、往古に立派に建つ、石の鳥居の姿を妄想していました。
さて、白樺や雑木に囲まれた車道をしばらく走ります。
時間に余裕があれば、「戸隠古道」と呼ばれる古の道を、歩いて参拝するコースがなかなか良さげです。
そうこうするうちに、戸隠神社の一社、「宝光社」(ほうこうしゃ)に着きました。
戸隠神社の五社のうち、再奥の「奥社・九頭龍社」以外は、無料の駐車場が設けられています。
先の二社参道前には有料の駐車場が整備されています。
宝光社を訪れると、まず目につくのがその参道。
絶句。
石の階段は全部で270段あるそうです。
鬱蒼と林立する杉の参道が、天の架け橋のように伸びていました。
階段を昇っていると、途中に、雰囲気のある境内社に気がつきます。
地面には木の根が張り、独特の神気を放っています。
さらに高いところにも社がありました。
千羽鶴が奉納されているところを見ると、病気平癒のご利益があるのでしょうか。
もう一息で本殿へ。
宝光社御本殿です。
祭神は「天表春命」(アメノウワハルノミコト)で、中社の祭神である「思兼命」の子と伝わります。
彫刻が見事な社殿。
おおらかな気を放つこの神社は、元は奥社の相殿として祀られていましたが、女性にも参りやすいよう康平元年(1058年)に現在地へ遷座されました。
なので女性や子供を守る神としての御神徳があるとされています。
しかし女性のための神と言いながら、妊婦さんなどには厳しい参道だなと思っていたら、「女坂」という、石段を使わずに社殿へ行ける参道が別にありました。
宝光社から36号線を北に進むと「火之御子社」(ひのみこしゃ/日之御子社)がひっそりとあります。
戸隠神社各社はこの36号線沿いに鎮座しますので、基本的に立ち寄りやすいのですが、火之御子社はやや規模が小さく、うっかりすると通り過ぎてしまいそうです。
入り口には鳥居のように立派な神木が二柱立っています。
その先に広がる境内。
火之御子社は創建を天福元年(1233年)と伝えています。
戸隠神社の各社が神仏習合した時も、当社のみは神社として一貫して守り通したと云います。
祭神は「天鈿女命」(アメノウズメノミコト)。
一般に芸能系のご利益があるとされる神です。
火之御子社の見どころは、社殿左手奥にある「夫婦杉」(めおとすぎ)。
樹齢は約500年と云われ、「二本杉」とも呼ばれています。
根元から二本に分かれたこの夫婦杉は、
強力なパワスポで稀にみられる捻れた杉となっています。
戸隠神社五社のうち、火之御子社にだけ社務所がなく、宝光社または中社でご朱印をもらうことができます。
宝光社から火之御子社とは反対の方向、細い山道に車を走らせると、「鏡池」にたどり着きます。
位置的には中社と奥社の間になります。
その池は、名前の通り、水面が鏡のように辺りを映し出しています。
鏡池には堤防のような場所があり、そこから撮影すると、戸隠連山を背景に入れることができます。
が、ご覧のように、右手下にある人工物も写ってしまいます。
右手の丘から写すと、邪魔なものは写りません。
鏡池には九頭龍の神が鎮まると云われていますが、とても神秘的な池です。
戸隠連山から吹き下ろす風は爽やかに体の中をすり抜け、
いつまでも佇んでいたいという気持ちが湧き上がって来ました。