熊本県球磨郡相良村川辺、人吉にほど近いその場所に『トトロの森』と呼ばれている神社があります。
「雨宮神社」(あまみやじんじゃ)です。
田園にこんもりと盛り上がった杜。
案内板には雨乞いの神様とあります。
参道の途中に竹で作られた祭壇がありました。
鳥居の前に来ました。
先には気の遠くなる石段が。
ここに立つと、デジャヴがよぎります。
んっなが~い階段を登って、
やっと終わりかと思いきや、
んっまだあるんか~い!
なんと隙を生じぬ二段構え!飛天御剣流か~い!!
ふと視線を横に向ければ、
ほうほう磐座っぽい巨石がごろごろしてる。
額から塩っぱい体液が滲み出てくる頃、ようやく社殿が見えてきました。
と、おお、境内一面に木の根が浮かび上がっています。
創建は不詳。
永享年中(1429-1441年)頃に再興されて後、延徳年中(1489-1492年)頃に修造。
永正9年(1512年)の大風で破損し、同13年(1513年)に社殿を作り替え、元禄6年(1693年)に修造、文久2年(1862年)8月に改造の記録があるそうです。
明治元年(1867年)に雨宮大明神から雨宮神社に改称、明治40年(1907年)頃に神殿が造営され、昭和33年(1958年)12月に拝殿の新造営がなされて現在に至っています。
祭神は「天之水分神」(あめのみくまりのかみ)、「国之水分神」(くにのみくまりのかみ)、「久比邪持神」(くいなもちのかみ/久比奢母智神)、「高於加美神」(たかおかみのかみ/高龗神」、「舟玉命」(ふなたまのみこと)。
元禄12年(1699年)に青井阿蘇神社第51代大宮司の青井惟董(あおいこれただ)が人吉球磨に鎮座する約250カ所の神社の由緒を編纂した『麻郡神社私考』(まぐんじんじゃしこう)によれば、京都市左京区鞍馬の貴船神社から勧請されたとされ、高龗神は竜神の類といわれ、雨を降らし、雨を止める神と記されています。
文明4年(1472年)6月、当地は大旱魃に見舞われ、小川や溝の魚は死に絶え、畑の作物はおろか雑草から山林の樹木まで枯れてしまい、7月には川も枯れてしまったといいます。
当時26歳であった相良家(さがらけ)12代の相良為続(さがらためつぐ)公は僧侶や宮司、山伏に命じて諸処の神仏に祈願させましたが効験はありませんでした。
そこで遂に当社に自ら参詣し、一心に祈りを捧げたあと、次の二首の歌を詠ます。
「名も高き 木末(こずえ)の松も枯れつべし なほ恨めしき 雨の宮かな」
「千早ぶる 神の井垣(いがき)も枯れ果てて 名も恥づかしき 雨の宮かな」
公の祈りが通じたのか、この歌に神が怒ったのか、下向の途次、一天俄かに掻き曇り、篠突(しのつ)く雨、大雨となったということです。
と、拝殿の中を覗いてみると、なんと友人帳がありました。
そしてにゃんこ先生も。
そこではたと気が付きました。
鳥居の前に立った時のデジャヴ、そうここは『夏目友人帳』の聖地だったのです。
ご存知の方も多い『夏目友人帳』(なつめゆうじんちょう)は、緑川ゆきさんによる日本の漫画です。
高校生の夏目貴志(なつめたかし)は、幼いころから普通の人には見えない妖(あやかし、妖怪)の姿を見たり、声を聴くことのできる能力を持ってたために孤独な幼少期を過ごしてきました。
しかし片田舎に住む遠縁の心優しい藤原滋・塔子夫妻に引き取られ、素敵な友人や祖母から引き継いだ「友人帳」を通じて妖怪たちとの結びつきを感じ、「大切な人たちとの繋がり」を守るため、ニャンコ先生と共に日々奮闘するのです。
2008年からアニメシリーズも放送され、2018年9月には劇場版が公開されました。
物語の舞台となっている自然豊かな田舎町の明確な設定はありませんが、劇中には作者の出身地・在住地である熊本県人吉市の風景をモデルとする描写が多数存在しており、アニメ第3期製作にあたっては、作者自らが熊本県のお気に入りの風景を監督・アニメスタッフに紹介したと伝えています。
この雨宮神社もアニメ4期のオープニングに使用されており、緑川ゆきさんもたびたび訪れているのかもしれません。
裏に回って本殿を見てみれば、中には招き猫が祀られていてもおかしくない雰囲気を醸していました。
さてこの雨宮神社、雨乞いの他にも安産・良縁のご利益で有名なのだそうです。
それは社殿の奥にある懸崖にあり、当社の奥の院として祀られています。
急な階段を降りた場所にあるのは、
「三産(シャンシャン)くぐり」と呼ばれる自然石のトンネル。
ごっつい岩が丁寧に重ねられています。
長く嫡男に恵まれなかった人吉藩主の相良長寛(さがらながひろ)が明和7年(1770年)に雨宮神社への参拝し、この岩の間をくぐったところ、効験あらたかに男子出生の幸運に浴したとされています。
出っ張ったトラップに注意して、僕もくぐってみます。
抜けた先はすぐに行き止まりで、
振り返ると小さな祠が。
眼下はこんな感じ。
ここは古墳の一部なのでしょうか。
産道をイメージさせる石のトンネルは、生まれ変わりのための舞台なのか。
ここに立っていると、不思議な安堵感に包まれます。
帰り際、胸をチリリと切なくさせる雨宮神社は、また訪れたくなる、どこか懐かしい聖地でした。