南側から望む、阿蘇五岳。

根子岳をこれほど間近で、マジマジ見たことはなかったかもしれません。
顔に見えますね。

オッパイ岳はなだらかなカーブを描いています。
古来より、阿蘇五岳の涅槃像は、男神か女神かの論争が絶えませんでした。中岳から噴き上がる煙は、男神のおしっこか、女神のオナラなのかと。
ここはやはり、女神推しでしょう。なぜなら、その方がロマンがあるからです。ロマンは大事。

前回、阿蘇を取り囲む重要聖地を書き込んだ地図をアップしましたが、そこに媛さんが書き加えてくれました。
赤い丸のところは、戸籍謄本にかかれている橋本家が嫁や養子に行ったところだそうです。
面白いのが、高千穂に橋本家から誰も嫁や養子に行った形跡がないこと。戸籍謄本に載ってない範囲ではあるかもしれないとのことでしたが。
高千穂と五ヶ瀬は険悪だったといわれていますが、やはり重要聖地は本来、高千穂ではなく五ヶ瀬だったのではないでしょうか。

阿蘇方面からの、聖域橋本への玄関口、熊本県阿蘇郡高森町に「草部吉見神社」（くさかべよしみじんじゃ）が鎮座しています。

由緒では、初代天皇の第一皇子である日子八井命（ひこやいみみのみこと）が東征の時、高千穂より五ヶ瀬川に沿ってこの地に来て、池の大蛇を退治し、池を埋めて宮居を定められた。館は草を束ねて壁とされた事により、この地方を草部と呼ぶようになった。さらに「此社吉宮床」（ここぞよきみやとこ）と言った事により、吉見という社号を称するようになった、と伝えられます。

当社は、もともと池であった場所に宮を築いたという伝えの通り、鳥居より石段を百数十段下ったところに社殿が鎮座しています。
このため「下り宮」と呼ばれ、宮崎県日南市の「鵜戸神宮」、群馬県富岡市の「貫前神社」とともに日本三大下り宮の一社とされています。

この草部吉見神社の階段を降りていくと僕は、いつも深海に降りていく気分がして、三大下り宮の中でもここが最も龍宮っぽい、というか常世っぽいと思わされます。

祭神の「日子八井命」ですが、アシュラさんがこの神は偽造された神だとおっしゃるように、別名である国龍神の方が、実にしっくりとくるものです。
日子八井は大和初代大君である天村雲と事代主の娘・蹈鞴五十鈴媛の間に生まれた子の一人とされますが、どうにも辻褄が合いません。

前回表示した阿蘇・高千穂に関する系図に、対馬系の系図を重ねてみました。
僕の私見も盛りまくりなので、あくまで正確性に欠けるものとご了承ください。

諏訪・阿蘇両家に伝わる系図によれば、多氏の王・健磐龍命に嫁いだ阿蘇津媛として、諏訪系の会知速比売の名があり、その父「会知早雄」（おうじはやお／えちはやお）が草部吉見神に相当することが分かります。
僕は当初、会知早雄がキハチだろうと推察していましたが、こうしてみると時代が合わないことが分かりました。

イツセ、橋本、キハチに関してはまだ確証がないところですが、火ノ宮・カムロギ王を多氏の初代王・神八井耳、雨ノ宮・偉大なる母神を蹈鞴五十鈴媛だとするなら、カムロギに由来するという興梠家も多氏系であろうと推察されます。
これに対し、キハチは興梠よりも丹部の祖と捉えた方が、自然な気がします。

二上山を祭祀する橋本家は、同じように二峯の夫婦の神奈備である、石見の佐比賣山、対馬の白嶽との類似性を感じさせ、出雲系の血を濃く引いている可能性を窺わせます。
よって、橋本家は、草部吉見神（漆間）の末裔ではないかと、とりあえず推定します。
高千穂・二上山の神は、漆間の神だという話にも合致します。

キハチの妻・鵜の目媛は祖母山の神の娘として伝えられ、祖母山には豊玉媛が祀られるといいます。
僕は豊玉媛の前身は海部の宇奈岐日女（宇那比媛）と考えていますが、ウナギヒメ→ウナメヒメ→ウノメヒメと転化したのではなかろうかと追考します。
もちろん、初代宇奈岐日女がキハチの妻だったわけではなく、彼女の名は世襲されていくことになったのだと思われます。
親魏和王の豊玉媛はおそらく、鵜の目媛よりも後の人となりますので、祖母山の神が豊玉媛では時代が合わないことになり、この母神は本来は宇奈岐日女で、後に豊玉媛に上書きされたのではないかと想像します。

また豊玉媛に関連してですが、豊玉彦の正体についてB師匠に尋ねると、『高良玉垂宮神秘書』に豊玉彦は事代主のことだと記述があるそうです。
豊玉媛が宇奈岐日女の子孫であるなら、彼女の出自は富家に通じ、ワニ属性であることの説明にもなります。

ミケイリノに関しては、彼は東征していますから、高千穂に現れたミケイリノは本人ではないと考えられ、祖母山に三輪山の「緒環伝説」（おだまきでんせつ）が伝わっていることから、物部に偽装した三輪氏ではないかと疑い始めました。祖母山近隣は早くから、大和国の大神氏（おおみわうじ）の傍流と考えられる豊後大神氏（おおがうじ）によって開発され、発展してきました。

さて、草部吉見神社がかつては池だったという名残の場所。

そこに湧き出る水は、当地の伝承にある日子八井耳が日向から持ってきた二つの石の珠「水の玉」「火の玉」に由来するとされ、その玉は雨を自在に降らせ、この地に農耕を広めたと云います。
これは正に「干珠・満珠」を言い表しています。

そしてこの湧水は「不老長寿の水」いわば変若水であると伝えられています。

そこで僕は、例の病気が発症して、会知早雄は諏訪系だけど、越智早雄なんじゃね～っ！！ってオロチの像に向かって叫ぶのです。
ねえ、国龍神さま。

草部吉見神社からさらに下ったところに、日子八井耳の御陵と伝わる場所があります。

月と太陽が彫られた石碑。あるいは新月と満月か。

高千穂神は漆間氏の神だったという伝承は、すなわち、草部吉見神族が高千穂を統べていたことを意味します。
ここでいう高千穂とは、今の三田井を中心とする高千穂ではなく、五ヶ瀬の二上山を頂きとする「桑野内」を中心地とした広義の高千穂です。

高千穂で有名な夜神楽についても、高千穂神社所蔵の長禄4年（1460年）の『桑之内二神外宮宣命之状』に「神楽」の文字が記載されており、これが高千穂神楽での最古の古文書と考えられているそうです。
この『桑之内二神外宮宣命之状』の情報は、媛さんが五ヶ瀬役場でとりよせた、彼女の家を示す唯一の資料の中にあり、そこから彼女が探し出した情報です。

つまり高千穂神楽も、桑野内が発祥である可能性が高いということです。

草部吉見神社の境外社に、「牛神社」（うしがみしゃ）があります。
今の祭神は牛頭天皇（ごずてんのう）になっていますが、この神は草部の現在の農業を開始振興した根源の神様で、顔が牛のようであったと云われています。
伝承によれば、草部の地を訪れた日子八井耳の前に現れ、五穀の種を与え、その栽培方法を伝授したとか。

草部吉見神社の地主神はこの牛神であると考えられますが、牛が登場する伝承が、高森から高千穂に至る途中に鎮座する、黒口神社にも伝わっていました。

遠い神代の昔、「天村雲命」は牛に乗って天から天降ります。
その時、命は上野村と田原村との間にある田原川の西岸の森に落ちてしまいましたが、牛が椿の枝で目をついて目を潰してしまいます。
命は田原川東岸の「妹生迫」（せのおさこ）と、西岸の「釜石」（田原）の人々に助けを求めましたが、誰ひとり助けにくる者はありませんでした。
そのうちに、「松の下」（上野）の人々が噂を聞きつけて、命の牛に水を汲んで与えました。
命は松の下の人々の親切を喜ばれましたが、妹生迫と釜石のと人々の不親切を怒り、「末永く聾（つんぼ）の絶えることはあるまい」と叱りつけました。
その後、命と人々の手当てのかいもなく、牛は８日目で死んでしまいました。
命が８日間、住まわれたことから、この森を「八日森」（やかもり）と呼び、牛のために水を汲んだ池には今も霊水が涌いて絶えることはないと云います。

ここで登場する天村雲は多氏の王の血族と理解します。
牛神は草部吉見神の系譜。ただ、黒口神社の伝承では、牛神は死ぬことになりますが。

阿蘇の多氏と草部吉見の漆間氏は姻戚関係を続けながら、より山深い桑野内に移住していったのではないでしょうか。
そこで造られた国が「アララギの里」と言うわけです。

漆間家は、天の岩戸神社の近くにある、謎の神社「落立神社」を司っていたと云われています。
ここでの漆間氏は、初代天皇の兄神、稲飯命（いなひのみこと）の子孫だと伝えられていますが、これも『高良玉垂宮神秘書』には「飯稲姫」という記載があるのだと、B師匠に教えていただきました。
落立、おちたち、オチタチ、オチ…、いやそれは置いておきましょう。
尚、高良玉垂宮（高良大社）は物部の神社だとの説が有力ですが、この一族は高千穂の近傍にある、諸塚山の一族であるとのことです。

多氏と漆間氏はなぜ、桑野内に定住したのか。それは阿蘇五岳の祭祀に相応しく、かつ、その一帯が宝の山だったからだと思われます。
現在も桑野内一帯の山々は橋本家の名義になっており、家督がそれを受け継いでいます。
今は採掘は禁止されているようですが、高千穂の山からは、さまざまな鉱物が採れたのだといいます。

さて、高森の地から黒口神社を経て三田井方面（高千穂）に入ってきた時、彼らが目にしたのは、天高く聳える二峯の山。

そう、二上山です。
女性的な丸い山と男性的な三角錐の山。
実はこの二上山は、山頂の三ヶ所神社奥宮からはもちろん、橋本の聖域がある桑野内からも二峯の山としては認識できません。
この美しい山容を見るには、三田井方面からしか叶わないのです。

しかし橋本家は、ここにイザナギ・イザナミの夫婦神を奉じてきました。
それはつまり、草部吉見神社から、黒口神社を経て桑野内に入るルートを通る時に見える、この夫婦の神奈備の姿を彼らは知っていたのです。

五ヶ瀬の五瀬家はいつしか物部と呼ばれるようになり、諸塚山の稲飯家はいつしか物部だと言うようになった。
それは物部の血が入ってきたからか、または物部を騙って偽装したのか。

高千穂の始まりは桑野内・橋本にあり、橋本の始まりは草部吉見神社にあったのではないだろうか。
そんな考えが、浮かび上がってきたのでした。

阿蘇・高千穂に伝わる『鬼八伝説』につきましては、”媛さん”と”Kaneko”さんがシンクロしております。

・ヒルコのイザナギの橋本と高千穂鬼八伝説検証⁉️（ヒルコ／媛さんのブログ）
・鬼八伝説　現世へ　1（空と大地と海を駆ける／Kanekoさんのブログ）