高千穂最大の秘境、そして本来、不容易に近づくべきではない聖域が、高千穂峡の渓谷を渡った先の山奥にあります。
ここ「秋元神社」は、高千穂の中心地から車で1時間近く走った所にひっそりと鎮座しています。
その秋元集落はびっくりするくらいのへき地にあり、辿り着くのも困難な細い山道をひたすら走ることになります。
道の途中に「殿の岩」という巨石がありました。
伝承の内容はいまいち伝わらないですが、とても風格ある大岩です。
小さな山村である秋元の集落は穏やかな雰囲気で、神社で出会う村人たちも優しげな印象です。
そこに佇む秋元神社は、しかしながら、やや近づき難い雰囲気があります。
秋元神社は高千穂神社の元宮、奥宮だと云われています。
境内には「稀にみる名水」とうたわれる「御神水」があります。
甘味を帯びた清らかな水は、秋元の人々を潤してきた名水中の名水です。
「秋元神社」が特殊なのは、参道を登った先にある鳥居の角度が微妙ずらしてあり、更に拝殿もずらして、入口が南西を向いていることです。
つまり祀られるご神体は鬼門の方向を向いている形になります。
神聖なご神体は通常太陽の方向、つまり東か南を向いているべきで、鬼門である北東を向くということはかなり奇妙なことです。
その先には「天岩戸」「天安河原」があり、
ひいては日本列島自体を北東に眺めています。
本殿の裏手へ回ってみます。
そこには畏怖を感じさせる杜が広がっていました。
両サイドには異界の門のようにそびえ立つ崖があり、
そこには洞窟らしき穴がいくつか見えます。
この穴は山伏などが修験のため篭った穴だと云われています。
いわく、霊的な何かが集まって来やすい場所なのだそうです。
それらの穴は「太子ヶ窟」に奥でつながっていると云います。
さて、この「秋元神社」を秘境たらしめるものがこの先にあります。
それを「太子ヶ窟」(たいしがいわや)と言います。
太子ヶ窟へと続く参道の入口は、秋元神社からまた細い道を進んだ先にありました。
ただし、この先には軽い気持ちで踏み込まない方がいいと思います。
身を守るもの(珠数など)を身につけていた方が良いと忠告する霊能者の話も聞きました。
参道とは名ばかりの「けもの道」を登ります。
15分ほど、よほどの信念がなければ登りきれないような急斜面のけもの道を登っていくと、急に空気が変わるのを感じます。
突如、大きな岩「太子ヶ岩」が見えてきました。
だくだくと流れていた汗が一気に引きます。
異様かつ神聖な空気が一面を覆っていました。
ぽっかりと空いた穴、これが秋元神社の御神体とも言われる「太子ヶ窟」です。
中からは冷気が吹いてきます。
この中には入るべきではない、そう感じました。
しばしの間、心を鎮めて
僕はここで失礼することにしました。
この上にある山は「諸塚山」といいます。
山頂に複数の塚、つまり古い墓があるからそう呼ばれるらしいです。
太古に、この山の山頂に眠った者たちは誰なのか。
それは崇高な者の子孫でありながら、虐殺された民達ではなかったか。
その者たちの怨念が、今もこの辺り一帯に渦巻いているように、僕には思われるのです。