死者が逝く所、「恐山」。
イタコの口寄せや
荒涼とした風景に、静謐な世界を想像する人も多いでしょう。
しかし現実は違うようです。
引っ切り無しにやってくる観光バス、最近では外人さんの集団や、ポケットサイズのモンスターのトレーナーとかもやってきて、
死者を偲ぶ人と観光気分でやってくる人が入り混じった、雑然とした世界になっているようです。
そういう僕も、観光客の一人に過ぎません。
しかし本来の寥寥とした恐山を体験出来る裏技がありました。
恐山は「恐山菩提寺」というお寺です。
お寺は泊まれる可能性がある、ということです。
恐山では「吉祥閣」という宿坊に、二食付きで¥12,000で泊まることができます。
宿泊すれば、観光客が帰った後と来る前の霊場をじっくり堪能できます。
宿坊の建物は最近建て直されたそうで、びっくりするくらい立派で綺麗です。
靴入れはなんだか、納骨堂を彷彿としてしまいました。
ロビーです。
宿坊は大抵、二食付きで¥7,000くらいの所が多いので、恐山は割高に感じます。
しかし、その値段以上の価値が、この一泊にありました。
部屋もとても綺麗です。
下手な旅館よりも清潔で、塵一つ落ちていません。
食事はもちろん精進料理です。
内容はいたってシンプルな、本来の観光用ではない精進料理です。
多くもなく、少なくもなく、命を保つ為の食事です。
食事は宿泊者全員が揃っていただきます。
食事の前には、「食事五観」という言葉を皆で唱えて、いただきます。
ちなみにこの日の宿泊者は僕と、外人さんと日本人のカップル、女の子一人の3組4名です。
各自渡された箸は、夕食後、部屋に持ち帰り、朝食にも使います。
そしてその箸は帰りの際、お土産に持って帰れます。
高野山の宿坊でも箸をいただきましたが、これは嬉しい。
命をいただく、大切な箸です。
こちらが朝食です。
そして恐山の宿坊の魅力の一つが「温泉」です。
びっくりなのが、恐山地蔵殿へ続く参道、その端っこに小屋のようなものが見えます。
これ、温泉です。
恐山にはこの小屋のような外湯が4箇所、宿坊内の内湯がひとつあります。
外湯は一般参拝者も入浴できますが、外をぞろぞろ人が歩いている中、入浴するのは勇気がいります。
参道沿いには女湯と書かれた「古滝の湯」「冷抜の湯」と男湯の「薬師の湯」があります。
この三つの湯は酸性の湯ということですが、特に「薬師の湯」はph1.8の強酸の湯だそうです。
傷、腰痛などに良いようですが、とにかく入浴直後から肌がとろとろです。
雰囲気の良い室内に良い湯。
しかしガスもかなり出ているということのなので、換気は必須で、長湯も厳禁。
しかし宿泊客の少ない宿坊なので、注意すれば女湯の「古滝の湯」「冷抜の湯」など、湯めぐりも可能だそうです。
内湯はもう一つある「花染の湯」と湯元が同じだそうで、ここばかりは宿泊客しか入ることができません。
花染の湯が上澄みの、澄んだ湯を使っているのに対し、こちらは湯の花まで混ぜ込んで注いでいます。
湯に浸かると、ざらっとした感触を湯床に感じます。
洗い場も広々としています。
もう一つの外湯「花染の湯」は宿坊の裏手にあります。
ここはわかりにくい所にあるので、参拝客もあまり来ないようです。
あたりは地獄でガスが出ています。
湯は確かにすっきりとした色で、さらりとしています。
宿坊のお坊さん曰く、この湯が一番お気に入りだそうです。
朝6:30からお勤めが始まります。
朝のお勤めは地蔵殿で家内安全などの祈祷を、釈迦如来安置の本堂で先祖供養を行っていただけます。
その時、びっくりしたのですが、宿泊者一人一人の住所と名前を読み上げて、祈祷されていました。
そう、御祈祷料込みの宿泊料だったのですね、納得です。
そして、その最後に、東北大震災と、熊本大震災の早期復興も祈祷されていました。
本州の果てから、九州の熊本の復興を毎朝願っていただいているのでしょう。
なんだかとても感動を覚えながら、低音響く、心地よい読経の声を聴いていました。