「皆が神、仙人の住みたまう所」と宣ひき。
ニセコに美しい沼があるというので、行ってみました。
目的地にほど近い場所で、素晴らしい景色を目にしたので車を停めます。
ここはニセコ・神仙沼地区の「大谷地」と呼ばれるところです。
エゾキンバイ、ヒオウギアヤメなどの高山植物や希少なフサスギナなどが楽しめる、山の合間に広がった自然のままの湿原地帯。
海抜750m以上の高原にある大湿原であり、数々の湖沼を生み出しています。
よく見れば木道が設けられており、トレッキングを楽しむこともできるようです。
それにしても細く伸びた朝霧の美しいこと。
早起きほど、お得なことはありません。
さて、「神仙沼」(しんせんぬま)、ここが目的の場所です。
広い駐車場があり、木道も整備されていてアクセスしやすいとのことでしたので、
さっそく足を踏み入れてみましたが、びっくり。
これはちょっとしたアドベンチャーじゃぁないですか!
神仙沼まで890m、はいがんばります。
なんか熊が出てきそうでコワいです。
クマ鈴、熊よけホイッスルを鳴らし、iPhoneからも音楽を流して進みます。
この僕のビビリざまは何とも無粋ですが、本当は静かに野鳥のBGMを楽しみたいものです。
それにしても紅葉の何と美しいこと。
最近では九州で美しい紅葉はあまりみられなくなりましたので、こうして四季が残っているのを確認すると嬉しくなります。
ビビってたハートも落ち着いて、インディジョーンズばりに気分が高まってきた頃、
一気に空が開けました。
湿原です。
夜に霜が降りたので、朝日に当たって霧化しています。
まだ木道には霜が残っていて、滑りやすいのですがキラキラ光って綺麗です。
紅葉で黄金色になった草原に浮かぶ池塘。
そこには周りの景色も映し出されていました。
神仙沼入口から約900m、20分ほど歩いてその場所にたどり着きました。
神仙沼はニセコ山系にある数々の湖沼の中で最も美しいと言われ、その神秘的な表情から神々や仙人が棲むようだと名付けられました。
その奇跡がここに。
見たこともないような、透き通った独特の青。
風もなく、鳥の歌声だけが響き渡る。
湿原性アカエゾマツをはじめとした木々は、自らの美貌を確認するかのように、水面にその姿を映します。
このどちらが上か下かもわからなくなる神秘的別世界に、口からはため息以外の言葉も出ません。
この日、僕の他に50年通い続けているという男性も見えていました。
その方曰く、今年の紅葉は、悪くないよということ。
ただ、近年増加傾向にある台風の被害で、立ち枯れる松も多いのだとか。
いかなる美しい光景であっても、この先永遠に見れる保証はないのです。
刻々と崩れ滅びゆく、我々の住む世界は特に。
そう思うと、気まぐれに見せてくれる神のギフトに、少しばかり目頭が熱くなるのです。
神仙沼は帰り道も、僕を楽しませてくれます。
行きとは別の、木道ルートが用意されていました。
「その者青き衣をまといて金色の野に降り立つべし。失われし大地との絆を結び、ついに人々を青き清浄の地に導かん…」
ナウシカばりの光景がそこにありました。
「ニセコ」(ニセコアン)とは、アイヌ語で「切り立った崖(の下を流れる川)」という意味なのだそうです。
この広大な神仙沼湿原は面積1.19ha、最大水深2m、平均水深1.3m。
標高765mの高地に位置しています。
大きめの池に浮かぶ小島は「浮島」になっていて、風によって移動します。
エゾゼンテイカ、ヒオウギアヤメ、チングルマ、ワタスゲ、トキ草、ウメバチ草、
季節によって様々な湿原植物が花開きます。
もうしばらくすると天から降る豪雪に当地も埋もれ、神々や仙人らもしばしの眠りにつくのです。