雲南市掛合町松笠の、斐伊川水系の三刀屋川の支流・滝谷川にある「龍頭が滝」(りゅうずがたき)は、僕がもっとも好きな滝のひとつです。
中国地方随一の名瀑といわれ、八重滝とともに「日本の滝百選」に選定されています。
駐車場に車を停め、のどかな道を歩きます。
僕と龍頭が滝の出会いは、本当に偶然のことでした。
20年ほど前になりますが、当時広島の三次に住んでいた僕は、須佐神社を訪ねていた時に、ふらり立ち寄ったのがここでした。
龍頭が滝の案内板に、なぜか強く興味を魅かれました。
この日も美しい花々が僕を迎えてくれています。
夏ばかりでなく、雪の日に訪れたこともあります。
熊に出会ったことはありませんが、
この辺で雪に埋もれて身動きができない時に、イノシシの親子が目の前を通り過ぎて行きました。
300mほど歩いていくと看板が見えてきます。
龍頭が滝は雄滝と雌滝があります。
まずは雌滝を目指してみます。
雌滝はすぐに見えてきました。
雌滝は30mからなる滝だと云いますが、ここからは段瀑の下部のみが見えるだけです。
この流域にはオオサンショウウオが生息しているそうです。
再び分岐へ戻って雄滝を目指します。
ここには名馬「池月」を産し、京に献上したとの伝説が残っています。
池月は承久の乱における宇治川の戦いの先陣争いで、佐々木高綱が騎馬し、後に源頼朝に献じられたと伝えられる名馬です。
雄滝へは、木の階段を登って行きます。
以前はこの階段はなかったように思います。
だいぶん整備された様子。
途中、雌滝の標識がありましたので、ちょっと降りてみます。
雌滝の上部が見えました。
再び戻って、登ります。
滝の音が聞こえます。
見えました。
光が差し込み、うっすら虹も出ています。
美しい。
柱状節理の大岩に囲まれて、水の音だけが響いています。
落差40mの直瀑。
僕はここを、蛇神「スセリ姫」が棲まうところと思っています。
そう思ったのは、とある漫画の
このシーン。
世紀の色男「己貴」(ナムチ)が、美貌と名高い蛇神「須勢理姫」に出会う場面です。
まんま龍頭が滝です。
実際僕は、ここで、神のような何かしらに、出会ったような気がするのです。
では姫神の神殿へ、足を運びましょう。
滝の飛沫が心地よい。
入り口には小さな石灯籠と、積み上げられた小石があります。
そして岩窟の上部に祠がありました。
滝観音が祀られているそうです。
雄滝の裏側は「裏見の滝」と呼ばれ、百畳ほどの見事な岩窟になっています。
明治時代の詩人・大町桂月は「出雲国中、滝は龍頭ヶ滝が第一なり。この滝日光に持ち行くも十番以内に有るべし。」と評しています。
例のコミックでも、ここにスセリ姫は坐していました。
よく見ると岩窟内には小石があちこちで積み上げられており、
天井から水が滴っています。
実在はしない姫神でしたが、確かに彼女の気配は今なおここにあるように感じます。
そしてあの日、どこか寂しげな彼女の姿を、やはり僕は見たような気がしているのです。