この日も早朝から車を走らせます。
すると、思いがけない出会いがありました。
換毛期でやや細身の「キタキツネ」です。
親子のようで、しばらく僕のことも気にならない様子でじゃれあっていました。
さて、数ある湖の中でも世界屈指の透明度を誇る「摩周湖」。
「霧の摩周湖」と呼ばれるように霧が出ている日が多いといいます。
この日は全くの快晴。
「摩周湖」は「カムイト=神の湖」とアイヌ語では言います。
中央に浮かぶ島は「カムイシュ=神となった老婆」。
昔アイヌの集落同士の争いがあり、戦ではぐれた孫を探しまわった老婆が動けなくなって島になったと伝わります。
今でもこの島に人が行くと、孫が訪ねてきたと嬉し泣きをし、雨が降るのだといいます。
さて、「摩周湖」も当然素晴らしいのですが、僕はさらにその裏手にある秘湖を目指したいと思います。
裏手といっても「摩周湖第一展望台」からはぐっと迂回をして1時間半ほど車を走らせなければなりません。
ようやくたどり着き、パーキングに車を止めます。
「神の子池」は「摩周湖」の伏流水が流れ込んでできていると言い伝えられています。
その水は「摩周湖」の美しい透明度を誇っているということです。
その奇跡が姿を現します。
見た瞬間、身震いを感じました。
「神の子池」の水温は年間を通じて8度と低いそうです。
なのて倒木は枯れず、ミイラ化しています。
水彩画さながらの風景。
小さな魚「オショロコマ」が泳いでいました。
柳の木が小川の上に斜めに身を乗り出し
鏡のような流れに銀の葉裏を映しているあたり。
あの娘は、その小枝で奇妙な冠を作っていました。
キンポウゲ、イラクサ、ヒナギク、シランなどを編み込んで。
あの花を、はしたない羊飼いたちは淫らな名で呼び
清らかな乙女たちは「死人の指」と名付けている。
それからあの娘は柳によじ昇り、しだれた枝に花冠を掛けようとした途端
意地の悪い枝が折れて
花冠もあの娘も
すすり泣く流れに落ちてしまった。
裳裾が大きく拡がって
しばらくは人魚のようにたゆたいながら
きれぎれに古い賛美歌を歌っていました。
身の危険など感じてもいないのか
水に生まれ水に棲む生き物のよう。
でも、それも束の間、
水を含んで重くなった服が
可愛そうに、あの娘を川底に引きずり込み
水面に浮かんでいた歌も泥にまみれて死にました。
シェイクスピアの「ハムレット」の一節、
ジョン・エヴァレット・ミレイの絵画「オフィーリア」を思い出しました。