(山門の巫女だと…) 「気持ち悪い。」神功皇后は身籠っていた。橿日宮での神託は、皇后の子が国を治めるだろうと告げていた。しかし子を孕むということが、これほどきついとは思っていなかった。 皇后はこんこんと湧き出る泉のそばで…
カテゴリー: 神功皇后紀
美奈宜神社〜神功皇后紀 13
この川のせせらぎの、なんと美しく、清らかなことだろう。 神功皇后は、気丈にも兵士らを鼓舞し、ようやく仇の羽白熊鷲を討ち倒した。皇后にとっては初めての戦であり、この先に続く大波乱の序盤戦に過ぎない戦いではあったが、その胸に…
荷持田村〜神功皇后紀 12
「どこで間違ったというのか。」 羽白熊鷲の顔には、深いくたびれた皺が見えていた。 「地の利もあり、腕自慢の奴らも大勢いた。」 荷持田村を拠点に、周囲の山々を支配した山の王、それが熊鷲だったはず。それが拠点をことごとく制圧…
大己貴神社〜神功皇后紀 11
3月末、冷えた空気は神聖さをさらに引き立てた。夜空がにわかに明るくなる頃、大勢の兵達を前に、一人の女性が立っていた。神功皇后である。 「我が民よ聞きなさい。王の兵士らよ、我らが王に弓引く者どもは目前である。我らはこれより…
砥上岳〜神功皇后紀 10
朝倉の「荷持田村」に豪傑の男がいた。その人となりは強健で、鷹の羽を飾り、朝倉の山々を悠々俊敏に駆け回る。その様はまるで、大翼で天高く飛ぶ猛禽類のようだ。 鉱山を持ち、刀剣の類を造ることに長けていた。力と人望もある。平地の…
伊野天照皇大神宮〜神功皇后紀 9
3月、薄暗い森に囲まれた敷地に数人の男と女がいた。その中央には、神がかり、豹変した女が一人。中臣烏賊はその女、神功皇后の中にいる神に問いかける。 「先日、大王に教えられたのはどこの神でございますか。その御名をお教え下さい…
櫻井八幡宮〜神功皇后紀 8
武内宿禰は、暗闇の山道を歩いていた。 人知れず「橿日宮」を抜け出し、ひたすらに穴門を目指して、海を渡った。懐かしい、「豊浦宮」が見えた時は思わず目頭が熱くなる。しかし懐古に浸る時間はない。一時も早く皇后の元へ戻らなくては…
香椎宮「儺の橿日宮」〜神功皇后紀 7
「私が見まわしたのに、海だけあって国はない。どうして大空に国がありましょうか。いたずらに私を欺くのは、いったい何という神か。」 静寂の中、大王の声だけが辺りに響く。時は9月、秋の気配漂う夜、かがり火の中に数人の重臣ととも…
古物神社〜神功皇后紀 6
神功皇后を乗せた輿とその一行は、1月の寒空の中、ただひたすらに歩み進んでいた。山間から吹きすさぶ風は冷たく、雲は鉛のように重たい。 「もう少し行けば、青い海と新天地の見える峠にたどり着くはず」皇后はふと鈍色の空を見上げた…
岡湊神社・高倉神社〜神功皇后紀 5
「岡の水門」は開けていた。 行き交う人々で賑わい、活気に満ちている。空は晴れ渡り、海風が潮の香りを運んでくる。ここが熊襲征伐の拠点となるのか、 皇后はしばし物思いに耽っていた。 昨夜は熊鰐が屋敷で、珍しい魚などを振舞って…
一宮神社~神功皇后紀 4
なんとも微笑ましいこと。にわかに作った小池に、鳥、魚が戯れている。あの首の長い鳥、あれは「鵜」と言ったか。飼いならした村人が鵜から魚を得る様は、いつまで見ていても飽きることはない。それにしてもあの男、「鰐」の駆けつけた時…
国見岩~神功皇后紀 3
天と地の狭間に立っている。色は薄く、線の細い体は柔らかな曲線を描いている。口ずさむ祈りは、歌のように流れて空の彼方に消えていく。天に届くかのように、まるでそこが故郷であるかのように、彼女は両の手を差し出した。淡い瞳に映る…