普段はひっそりとした神社が、毎年1月8日から11日の間だけ、異様に盛大に盛り上がります。
福岡東公園内にちょこんと鎮座する、「十日恵比須神社」です。
広々とした公園内に、そこだけ結界を張ったような、神聖な雰囲気。
普段は人影もまばらです。
社伝によると、香椎宮大宮司家の武内五右衛門(平十郎)という人が分家して「神屋」と号して博多で商売を営んでいたそうです。
天正19年(1591)1月3日、香椎宮・筥崎宮を参拝した平十郎は、香椎浜に流れついた恵比須神の神像2体を見つけ、それを自宅に持ち帰って祀りました。
すると家運が隆盛したと云います。
翌年これに感謝した平十郎は、1月10日、神像を拾い上げた場所に社殿を設け、それが十日恵比須神社となりました。
その後、紆余曲折あり、今の東公園内に遷座されたそうです。
体格のいい狛犬がいます。
そして恵比須さんだけに、鯛の手水舎が微笑ましい。
御祭神は「事代主命」(恵比須神)と「大国主命」(大黒神)。
出雲王国8代目の主王・副王、ツートップです。
えびすの総本社と言えば島根の「美保神社」ですが、博多でえびすと言えばこの十日恵比寿神社。
おみくじから、
お守りまでとにかく、めでたい尽くし。
社務所に「えびす銭」というおもしろい縁起物を見つけました。
古くから商いの元金(種銭)として、縁起のよいお金を貸し、これを元手に商売をし、翌年ご加護により繁昌したお礼として、借りたお金を倍にして返し、又、新たに借りて行くという風習を受け継いだものだそうです。
えびす銭は1年間経ったら、神社へお礼のお賽銭とともにお返しします。
さて、十日恵比須神社では、毎年1月8日から1月11日まで「正月大祭」が執り行われます。
いわゆる「十日えびす」のお祭りです。
あんなにガランとした境内が東公園内にまで人が溢れ、出展された露店の数も300軒という大規模な祭りになっています。
当然、参拝するには大行列に並ぶ必要があり、時には1時間以上の時間、立ち並ぶこともあります。
正月大祭は、8日が「初えびす」、9日が「宵えびす」、10日が「正大祭」、11日が「残りえびす」と呼ばれています。
中でも見ものが9日の宵えびすだそうで、「博多券番」の芸妓さんたちが、島田のビンに稲穂のカンザシ、紋付正装(もんつきせいそう)、裾ひき姿で「徒歩詣り」(かちまいり)をするということです。
成人式前の期間で、なかなか9日に、ピンポイントで休暇を得ることが難しく、僕はまだこの徒歩詣りを拝見しておりませんが、いつか博多那能津会の三味線・笛・太鼓に合わせて声響く十日恵比須の唄を聴きながら、博多の風情を味わいたいものです。
この「十日えびす」と言われる初えびすの行事、当社のみならず、主として西日本の「えびす系」神社で行なわれているそうです。
多くは毎年正月10日に行なわれますが、なかでも兵庫県西宮市の「西宮神社」、大阪府大阪市の「今宮戎神社」、そして福岡の「十日恵比須神社」が有名で、その三社では1月8日または 9日の宵えびすから始まり、11日の残りえびすで終わるということです。
中でも9日と10日は、一年の商売繁盛を祈願し、縁起物の「福笹」をいただこうとする多くの参拝者でにぎわいます。
今宮戎神社では、福笹を授与する一般から募集した福娘と呼ばれる若い女性たちの姿が話題を呼び、西宮神社では、宵えびすの深夜に神社のすべての門を閉じて神職の居籠りが始まり、翌10日午前6時に表大門の開門と同時に参拝者が本殿目指して競走する「福男」が毎年ニュースになっています。
さて、たまたま2019年、平成最後の1月10日に休みをいただいた僕は、夕刻になり始めるころに十日えびすのことを思い出し、慌てて参拝に駆けつけた次第です。
夕刻ならば人出も落ち着く頃かと思いきや、むしろ十日えびすは夕刻から夜にかけてが賑わうのだとか。
それもそのはずで、日にち固定で平日に執り行われることも多い十日えびすは、深夜0時まで祭りが行われ、仕事を終えてやってくる人も多いからです。
それでも僕はまだ運が良かったらしく、世話役の氏子さんの話を聞いていると、今ちょうど人が引いたとこだと言うことでした。
まあ、人が引いてこの数、と言うのですから、相当なものです。
ところで、拝殿の両横からは、先ほどから威勢の良い「大当たりぃ~!」「商売繁盛~っ!」という掛け声が聞こえています。
それは十日えびす名物の「福引き」の風景。
あらかじめ福引券を購入し、拝殿横の福引き処に並びます。
福笹と共に渡される景品は基本的に全て「大当たり」。
張子の福起こし、福寄せ、干支、金蔵、そろばん等、縁起の良いものばかりとなっています。
僕が狙っているのは、「満福」(まんぷく)と言われる大うちわ。
しかし僕は福引券は買いません。
僕が向かうのは「開運御座」(おざ)の会場です。
この開運御座でも、福引きが行われるからです。
これが開運御座の風景、まるで「TRICK」に出てくる新興宗教の儀式のよう。。
御座の受付を済ませると「白丁」(はくちょう)と言う白いちゃんちゃんこのようなものを渡されます。
そしてしばし、待合で待機です。
開運御座とは新春の縁起を祝う儀式で、古文書に依れば、文禄元年(1592年)から始められたそうです。
御座は1月9日午前10時、吉例の一番座に始まり、翌10日の24時まで執り行われます。
元は各界の知名士、崇敬者をお招き致して行われたそうですが、今は一般も参加できる神事です。
しばらく待つと、拝殿に呼ばれ、皆でお祓いを受けます。
ここで1年中の開運、商売繁昌、家内安全、無病息災の御加護を仰ぐ御祈願が執り行われます。
この後、社務所会館にある開運殿大広間の神前で座席に着き、神人同食の神事を行います。
それが先ほどの風景。
神人同食とは名の通り、神様と一緒に、同じ食事を頂くという神事です。
まずは薄茶が運ばれ、お茶を頂きます。
一口ナスの漬物が載っていた貝殻風の器が素敵です。
続いて直会膳(なおらひぜん)で縁起を祝う蛤吸物が出ました。
お土産の折敷には、御神饌、昆布するめ、えびす飴等が入っています。
そして独特の言い回しで声高々に行われる福引きの始まりです。
一人一人の頭上で次々に福引きが引かれ、「大当たりぃ~!」「商売繁盛~っ!」と縁起物が配られる様子は、なんとも愉快です。
そして僕はと言えば、ちゃっかりお目当の満福大うちわをゲットしたのでした。
今年は幸先よろしいです♪
最後は皆の幸運と一家の繁栄を祈って、えびす手一本の打入れで御座の終了。
福笹片手に、皆えびす顔で帰路に着くのでした。